クジラは水を噴き上げない あなたは大丈夫?クジラに関する誤解

クジラを守りたいのであれば、彼らのことをもっとよく知る必要がある

2022.05.04
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【動画】シロナガスクジラ101(解説は英語です)
史上最大の動物であるシロナガスクジラ。どんな陸生動物よりも大きいのはなぜなのか。長年、捕獲され続け、絶滅寸前にまで追い込まれた理由とは。

噴気孔から海水は噴かない、出すのは空気

 クジラが水面に出たときに聞こえる音は、海中で長時間止めていた息を吐いている音だと、ガラード氏は言う。よく、漫画などで海水を噴き上げているクジラの絵が描かれることが多いが、「本当はクジラの吐く息なんです」という。クジラの肺から出る温かい息が冷たい外気に触れると、結露して霧のようになる。人間の吐く息が寒い日に白く見えるのと同じ現象だ。この霧のなかには、クジラの鼻水や、噴気孔を覆っていた海水のしぶきも含まれている。

 クジラが海水を噴くという誤解をそのままにしておくと、時にクジラのために良かれと思ってやったことが裏目に出ることがある。「ブリティッシュ・ダイバーズ・マリン・ライフ・レスキュー」のダン・ジャービス氏によると、座礁したクジラを見つけた人々が、魚だから水が必要だろうと思い込んで噴気孔に海水を入れてしまい、死なせてしまったことがあったという。

 クジラの吐く息からわかることは多い。「クジラは呼吸するために、海面に上がってきます。そうでなければ彼らの姿を見ることはできません」と、カニンガム氏は言う。クジラを怖がらせることなく体液を採取するため、科学者はペトリ皿を取り付けた特殊なドローンを、息を吐くクジラの上空へ飛ばす。カニンガム氏によると、このサンプルから「クジラの健康、ストレスの大きさ、汚染状況、その他様々なこと」がわかるという。また、噴気孔の形からクジラの種も判別できる。

歌わないクジラもいる

 クジラが歌うという話は有名だ。「クジラの歌」は、あるパターンを持つ一連の音声で、中にはかなり複雑なものもある。その音は、海のなかで驚くほど遠くまで届くことがある。しかし、全てのクジラが歌うわけではないということは、あまり知られていない。(参考記事:「「クジラ語」は解読できるか? 大型研究プロジェクトが始動」

 クジラの歌として録音されているのは、ザトウクジラ、ナガスクジラ、シロナガスクジラ、ホッキョククジラなどヒゲクジラ類のものだ。声帯がないのにどうやって音を出せるのかはわかっていない。

 一方、マッコウクジラ、ゴンドウクジラ、ベルーガなどのハクジラ類は、歌ではなくエコーロケーション(反響定位)用のクリック音を発する。マッコウクジラのクリック音は、200デシベルを超える大音量だ。ちなみに200デシベルとは、人が直接聞けば死に至る危険性のある音量だ。(参考記事:「人にもできる! 音で周囲を知覚する「反響定位」のしくみ」

 米ウッズホール海洋研究所の専門研究員で米ハンプシャー大学の教授レイラ・セイヤ氏によると、ヒゲクジラ類でも歌を歌うのはオスだけだが、「歌以外であれば、オスもメスも様々な音を発します」という。歌うメスのクジラというのは、知られていない。オスがなぜ歌うのかに関しては諸説あるが、求愛目的で「他のオスと競争したり、メスを引き付けたりするため」という見方が一般的だ。

 オスは、仲間のクジラから歌い方を学ぶ。それぞれの群れに独自の歌があり、それは時とともに変化する。クジラの歌を聞いて、研究者たちは群れを判別できるという。たとえば、2020年にはこの方法により、インド洋で新たなシロナガスクジラの群れが見つかった。(参考記事:「クジラには集団ごとに「文化」がある、3年間24カ所で撮影」

参考ギャラリー:集団で「立ち寝」をする巨大クジラ(画像クリックでギャラリーページへ)
参考ギャラリー:集団で「立ち寝」をする巨大クジラ(画像クリックでギャラリーページへ)
インド洋の水深15メートルのところで眠っている、マッコウクジラの群れ。その数は30頭を超す。このように立った状態で、何分もあるいは何時間も動かずにいる。このクジラはすべてメスで、子どもたちは親が寝ている間、水面で過ごす。(PHOTOGRAPH BY STEPHANE GRANZOTTO)

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文=MELISSA HOBSON/訳=ルーバー荒井ハンナ

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