2021年5月27日、米ロードアイランド州プロビデンスのバトラー病院で、アルツハイマー型認知症治療薬アデュカヌマブの投与を受ける治験参加者のヘンリー・マゲンダンツさん。(PHOTOGRAPH BY KAYANA SZYMCZAK, THE NEW YORK TIMES VIA REDUX)
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 先日来、マシュー・シュラグ氏の受信箱には、アルツハイマー病の患者やその家族から、新しい治療薬には期待が持てるのかどうかを尋ねるメールが殺到している。一般名でアデュカヌマブと呼ばれるこの薬は6月7日、米食品医薬品局(FDA)からの「迅速承認」を取得した。FDAが前回アルツハイマー病の治療薬を承認したのは2003年のことだ。

 しかし、バンダービルト大学メディカルセンターの神経科医であるシュラグ氏がこの新薬を処方する可能性は低い。「効果があるかどうかわかりませんし、深刻な副作用があるかもしれません」

 米国では、65歳以上の600万人がアルツハイマー病を抱えているとされる。この病気は認知症の最も一般的な原因であり、米国民の死因としては6番目に多い。アルツハイマー病と診断された高齢者の平均余命は4〜8年であり、患者の家族らは、病気の進行を遅らせ、生活の質を向上させる治療法を切実に求めている。

 マサチューセッツに本社を置くバイオジェン社が開発し、アデュヘルムという商品名で販売されるアデュカヌマブは、アミロイドβと呼ばれるタンパク質を除去する。このタンパク質はアルツハイマー病患者の脳に蓄積し、脳細胞間のコミュニケーションを阻害する。一部の研究者は、アミロイドの異常な塊であるプラークを除去することによって、アルツハイマー病の根本的な原因を解決できるのではないかと考えている。

 FDAが評価した臨床試験データにおいては、アデュカヌマブが脳に蓄積したアミロイドタンパク質を効果的に減少させ、認知機能の低下をわずかに抑制する兆候が見られた。これはつまり、過去に承認された治療法とは異なり、この薬が単に症状を抑えるだけでなく、病気の進行を遅らせうることを意味する。

 しかし、アミロイドが治療における鍵であるという説は激しい議論の的となっており、不確かなエビデンス(証拠)に基づいたFDAの決定はすぐに非難を浴びることになった。

次ページ:臨床的な効果は不明、副作用も

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