アルツハイマー新薬、米当局の承認に異論噴出

バイオジェンとエーザイの「アデュカヌマブ」、諮問委員会は不支持だった

2021.06.15
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

「最終的には、われわれはデータが明白でない状況において、規制上の決定を行う際の通常の手順に従いました」。FDA医薬品評価研究センターの責任者パトリツィア・カバゾニ氏は、今回の決定についてプレスリリースにそう書いている。「FDAによるアデュヘルム承認の結果、アルツハイマー病の患者は、この病気と闘うための重要かつ不可欠な新しい治療法を手にすることになります」

 だが、シュラグ氏をはじめとする多くの科学者は、この薬に認知症の進行を遅らせる効果があるとは納得していない。「有効性を示す証拠がありません」とシュラグ氏は言う。「臨床的な効果はほとんど認められませんでした」

 なお、バイオジェン社にこの記事へのコメントを求めたところ拒否された。

中間データ分析では「無益」の評価

 1980年代、科学者がアルツハイマー病患者のDNAを調べ、アミロイドβタンパク質をつくる遺伝子に変異を発見した。遺伝子の変異はアミロイドβにプラークと呼ばれる異常な塊を形成させ、これが脳に蓄積する。このプラークは以前からアルツハイマー病の引き金になると考えられていたため、アミロイドβタンパク質はすぐに研究や治療薬開発の対象となった。

 いくつかの製薬会社がアミロイドの蓄積を抑える物質を開発したものの、いずれも認知症の進行を抑えたり、逆行させたりするには至らなかった。

 だが2015年、アデュカヌマブの臨床試験から得られた初期のエビデンスに、一部のアルツハイマー病患者において、アミロイドプラークの除去に加えて、認知機能の低下がやや緩やかになる兆候が見られた。

 この研究に基づき、バイオジェン社は「エンゲージ」と「エマージ」と呼ばれる、より大規模な臨床試験を2つ別々に立ち上げた。それぞれの内容はまったく等しく、3300人の協力者(アルツハイマー病による軽度認知障害および軽度認知症の患者)は、月に1回、プラセボ(偽薬)、低用量のアデュカヌマブ、高用量のアデュカヌマブのいずれかを静脈内に注射された。

 しかし、独立した中間データ分析により、アデュカヌマブは「無益」と示されたことから、この2つの試験はどちらも2019年3月に中止された。アデュカヌマブは蓄積したアミロイドを除去したものの、認知機能の低下を抑制したり、遅らせたりすることはなく、患者には利益がないと判断されたのだ。

「迅速承認」の理由

 ところがバイオジェン社は2019年10月、中間データ分析開始時から試験終了日までの追加データを含めてデータを再分析した。すると、「エマージ」試験で高用量のアデュカヌマブを投与された患者は、プラセボの患者と比較して、認知機能の低下が18カ月の間に22%遅くなったことが判明した。一方で「エンゲージ」試験の患者の中には、こうした遅れは認められなかった。

「これが統計的に証明できる効果であることは間違いありません」とシュラグ氏は言う。「しかし、臨床的に意味があるのかは疑問です」。その意味するところは、この試験で記録された認知機能低下のわずかな遅れは、患者の記憶力を向上させるとは限らないということだ。

 この薬に対してはまた、副作用についての批判もある。アデュカヌマブを投与された全患者の約35%が、痛みを伴う脳の腫れを経験し、中には脳内出血を起こした例もある。

 それにもかかわらず、バイオジェン社は日本の製薬会社エーザイとともに、統計的に有望な結果に基づいてFDAに承認を求めた。2020年11月、FDAの独立した専門家諮問委員会は、アルツハイマー病患者への効果があることを示す証拠が十分でないとして、この薬の承認を不支持とした。

 ところが6月7日、FDAは自らの諮問委員会の意見を無視して、この薬に「迅速承認」を与えた。FDAによると、このタイプの承認は「満たされていないニーズがあり、また臨床的な利益が期待される場合、たとえその利益に関して不確かな部分が残っているとしても、重篤な疾患を有する患者に対し、効果を示す可能性がある治療法を早期に提供することを目的としている」という。

次ページ:治療費は年間600万円超、アミロイドβが原因でない可能性も

会員向け記事を春の登録キャンペーンで開放中です。
会員登録(無料で、最新記事などメールでお届けします。

会員登録(無料)のメリット

  • 1ナショジオ日本版Webの
    無料会員向け記事が読める
  • 2美しい写真と記事を
    メールマガジンでお届け

おすすめ関連書籍

ビジュアル ホルモンのはたらき パーフェクトガイド

人体でホルモンはどのようにはたらいているのか。日々の多様な場面とホルモンのかかわりはどのようなものなのか。ホルモンについてしっかり知りたい人のための1冊。

定価:2,750円(税込)

  • このエントリーをはてなブックマークに追加