謎多き深海のカグラザメ、潜水艇で予想以上に多く遭遇

北大西洋アゾレス諸島沖、衛星タグを使った行動調査へ

2021.06.16
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【動画】バハマ沖で深海ザメ「カグラザメ」にタグが付けられた。(解説は英語です)(Producers: Marielena Planas, Richie Hertzberg, Footage Provider: Alucia Productions, LLC D/B/A OceanX Media)

 北大西洋のポルトガル領アゾレス諸島沖、水深235メートル。潜水艇の周りには、銀色のアジとオレンジ色のボアフィッシュが竜巻のように渦巻いている。

 潜水艇の中では、パイロットと2人の研究者がおしゃべりしながら、深海最大の捕食者の出没を待ちわびていた。やがて暗闇から巨大な生物の影が現れ、潜水艇に近づいてきた。体長5.5メートルのメスのカグラザメだ。

 カグラザメ属(Hexanchus)は現在、世界に3種が生息している。最大の特徴は、英名「sixgill shark(6つの鰓のサメ)」の通り、鰓孔(えらあな)が6対あること。大半のサメは5対だ。オリーブがかった茶色の肌に小さな背びれ、そして印象的なエメラルド色の目をもつ彼らは、ティラノサウルスなどの恐竜が生きた時代からあまり姿を変えていない。

 興味深いサメだが、わかっていることは非常に少ない。国際自然保護連合(IUCN)はカグラザメ(Hexanchus griseus)を「近危急種(near threatened)」に指定しているものの、データは極めて不足している。理由は調査の難しさにある。網やフックで捕獲して水面に引き上げることは可能だが、サメに大きな傷や苦痛を与えかねない。

 だが2019年、米フロリダ州立大学、米フロリダ自然史博物館、バハマのケープ・エルーセラ研究所、そして「オーシャンX」の科学者たちが、より優れた方法を開発した。カグラサメが生息する深海まで潜って、彼らに衛星タグを取り付けるのである。

 オーシャンXは、レイ・ダリオ氏と息子のマーク・ダリオ氏が立ち上げた、海洋探査とメディア活動を行うプロジェクトだ。オーシャンXが提供した潜水艇には、厚いサメの皮膚に衛星タグを注入できるよう改造を施した水中銃(スピアガン)が1対搭載されている。チームは多くの試行錯誤の末、バハマに生息する1匹のカグラザメにタグを装着することに成功した。(参考記事:「【動画】謎多き深海サメ、深海でのタグ付け初成功」

カグラザメを調査するための潜水を終え、浮上した潜水艇。2021年6月6日。(PHOTOGRAPH BY MARIO TADINAC)
カグラザメを調査するための潜水を終え、浮上した潜水艇。2021年6月6日。(PHOTOGRAPH BY MARIO TADINAC)
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 このバハマでの成功は、カグラザメの研究を勢いづけた。オーシャンXチームは2021年6月3日、調査船オーシャン・エクスプローラー号に乗り、北大西洋のアゾレス諸島沖で調査を開始した。島々を囲む海底谷や海山にすむカグラザメの大きな個体群に、地元の科学者と協力して衛星タグやカメラ付きのタグを取り付けるためだ。

「カグラザメについては、まだ解明されていないことだらけです」と語るのは、冒頭の潜水艇に搭乗していたオーストラリア、カーティン大学の海洋生物学者であるメリッサ・クリスティーナ・マルケス氏だ。「(アゾレス諸島沖でタグをさらに)取り付けることで、この一帯の深海を支配する彼らに光を当てることができるでしょう」

次ページ:サメに取り付ける2種類のタグ

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