ビクトリア女王の結婚式の際に贈られた記念品の箱。(BRIDGEMAN/ACI)
ビクトリア女王の結婚式の際に贈られた記念品の箱。(BRIDGEMAN/ACI)
[画像をタップでギャラリー表示]

 ケーキが高くなったのに加えて、新たに登場したのが装飾だ。ビクトリア女王とアルバート公子のケーキには、いくつかのミニチュア像が飾られた。そのうちの一つは、英国を擬人化した女性ブリタニアで、ローマ風の衣装をまとって二人を祝っていた。その後まもなく、一般の人々のケーキの上にも、花婿と花嫁の小さな像が置かれるようになった。

 ビクトリア女王のウェディングケーキでもっとも多く語り継がれることになったのは、全体が真っ白なロイヤルアイシングで覆われていたことだろう。1840年ごろは、精製された白砂糖はとても高価で、このような印象的なウェディングケーキはまさにステータスを象徴するものだった。

 このケーキは大きな反響を呼んだ。式の前にはロンドン中の窓にケーキの絵が飾られたと伝えられ、新聞にも掲載された。その後、王室の結婚式のたびにケーキが新聞に載るようになり、誰もが豪華なケーキの様子を知ることができるようになった。

 一方で、19世紀後半には砂糖の価格が下がり、豪華な王室をまねたい中流階級の間にもロイヤルアイシングを用いた多層ケーキが広まった。

現在も保存されているビクトリア女王のウェディングケーキ
現在も保存されているビクトリア女王のウェディングケーキ
ビクトリア女王のウェディングケーキは新たな流行を生んだが、伝統にのっとったものでもあった。つまり、繊細なスポンジケーキではなく、砂糖、蒸留酒、ドライフルーツをふんだんに使った、長期保存可能なフルーツケーキだった。記念品として贈られたケーキの中には現在も大切に保管されているものがあり、王室のコレクションには2切れが保存されている。それとは別にオークションで販売されるものもあり、豪華な箱に入れられた1840年のケーキの1切れには、2016年に1500ポンド(約23万円)の値が付いた。(BRIDGEMAN/ACI)
[画像をタップでギャラリー表示]

ますます大きく、そして身近に

 一般の人々の間で多層ケーキが広まると、王室のウェディングケーキはその高さで権威と威信を保つことになる。

 1858年にビクトリア女王の長女であるビクトリア王女がプロイセンのフリードリヒ・ヴィルヘルム王子と結婚したとき、新たな王室の基準ができあがった。このときケーキ職人たちが作ったのは、3段からなる高さ1.8メートル以上のケーキだった。1893年のジョージ王子(のちの国王ジョージ5世)の結婚式では、3段のウェディングケーキは高さ2.1メートルに達した。エリザベス妃(のちの国王ジョージ6世の妃)もそれに負けず、9段からなる高さ3メートルものケーキが登場した。

 ウェディングケーキは今でも英国王室の豪華な結婚式の象徴であり続けているが、もはや国家の君主や重要人物だけでなく、一般の人々にとっても結婚を祝うアイテムとして広まっている。

会員向け記事を春の登録キャンペーンで開放中です。会員登録(無料で、最新記事などメールでお届けします。

会員登録(無料)のメリット

  • 1ナショジオ日本版Webの
    無料会員向け記事が読める
  • 2美しい写真と記事を
    メールマガジンでお届け

おすすめ関連書籍

世界の宮殿廃墟 華麗なる一族の末路

世界各地の宮殿廃墟を訪れ、栄光から没落へと至った物語を、美しい写真と簡潔な文章で綴った写真集。 〔全国学校図書館協議会選定図書〕

定価:2,200円(税込)

文=INÉS ANTÓN/訳=鈴木和博