ケーキが高くなったのに加えて、新たに登場したのが装飾だ。ビクトリア女王とアルバート公子のケーキには、いくつかのミニチュア像が飾られた。そのうちの一つは、英国を擬人化した女性ブリタニアで、ローマ風の衣装をまとって二人を祝っていた。その後まもなく、一般の人々のケーキの上にも、花婿と花嫁の小さな像が置かれるようになった。
ビクトリア女王のウェディングケーキでもっとも多く語り継がれることになったのは、全体が真っ白なロイヤルアイシングで覆われていたことだろう。1840年ごろは、精製された白砂糖はとても高価で、このような印象的なウェディングケーキはまさにステータスを象徴するものだった。
このケーキは大きな反響を呼んだ。式の前にはロンドン中の窓にケーキの絵が飾られたと伝えられ、新聞にも掲載された。その後、王室の結婚式のたびにケーキが新聞に載るようになり、誰もが豪華なケーキの様子を知ることができるようになった。
一方で、19世紀後半には砂糖の価格が下がり、豪華な王室をまねたい中流階級の間にもロイヤルアイシングを用いた多層ケーキが広まった。
ますます大きく、そして身近に
一般の人々の間で多層ケーキが広まると、王室のウェディングケーキはその高さで権威と威信を保つことになる。
1858年にビクトリア女王の長女であるビクトリア王女がプロイセンのフリードリヒ・ヴィルヘルム王子と結婚したとき、新たな王室の基準ができあがった。このときケーキ職人たちが作ったのは、3段からなる高さ1.8メートル以上のケーキだった。1893年のジョージ王子(のちの国王ジョージ5世)の結婚式では、3段のウェディングケーキは高さ2.1メートルに達した。エリザベス妃(のちの国王ジョージ6世の妃)もそれに負けず、9段からなる高さ3メートルものケーキが登場した。
ウェディングケーキは今でも英国王室の豪華な結婚式の象徴であり続けているが、もはや国家の君主や重要人物だけでなく、一般の人々にとっても結婚を祝うアイテムとして広まっている。
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