現代の結婚式の定番と言えば、何層にもなった豪華なウェディングケーキを思い浮かべる人も多いだろう。新郎新婦がケーキにナイフを入れる場面は、絶好の撮影チャンスだ。
実はこのウェディングケーキ、19世紀の英国王室と深いかかわりがある。とはいっても、ウェディングケーキ自体は古くからあった。古代ローマ時代には子宝や豊穣を祈り、花嫁の頭の上で硬いビスケットのようなものを砕く慣習があったほか、中世イングランドでは新郎と新婦が小さなパンケーキをたくさん重ねたような菓子の頂上越しにキスをしていた。
こうした伝統が今のようなウェディングケーキに置き換わったきっかけが、1840年に行われた英国のビクトリア女王とアルバート公子との結婚式だ。このとき出されたのは3層からなる大きな英国式プラムケーキで、高さ35センチ、重さ130キロ以上もあった。
ウェディングケーキ誕生の歴史
特に斬新だったのはケーキの高さだ。このころの伝統的な英国のケーキは、ほとんどが1層だった。食の歴史の専門家は、当時人気になっていたフランス風のケーキを女王が望んだのではないかと考えている。ケーキがより高く、装飾的になり始めたのは18世紀、革命前のフランスにさかのぼる。フランス革命の後には、そのような菓子職人やパティシエがフランスから英国に渡り、上流階級にもてはやされるようになった。
別の説もある。18世紀初め、ロンドン大火で焼失したセント・ブライズ教会を建築家のクリストファー・レンが再建させたとき、ロンドンのパン職人が教会の尖塔に着想を得て背の高いケーキを作ったという説だ。ただし、人類学者のサイモン・R・チャースレイは著書『ウェディングケーキの文化史』の中で、この説に疑問を投げかけている。「背が高いケーキの起源をなんとかして、18世紀末に大陸の菓子職人がやってくる前の英国に見ようとしている」
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