南極大陸を取り囲む南極海をよく知る人は言う。そこは他のどの海にも似ていない、と。
「南極に行ったことのある人はみな、何がそんなに魅力的なのかを説明するのに苦労するでしょう。しかし、他のどこよりも氷河が青く、空気が冷たく、山に恐ろしいほどの迫力があり、風景が魅惑的だということは誰もが認めるところです」と、米海洋大気局(NOAA)の海洋科学者で、ナショナル ジオグラフィック協会のエクスプローラーでもあるセス・シコラ・ボディー氏は語る。
ナショナル ジオグラフィックは1915年に地図製作を始めて以来、世界にある大洋を、大西洋、太平洋、インド洋、北極海の4つだとしてきた。しかし今年の世界海洋デーにあたる2021年6月8日からは、南極海(Southern Ocean)を第5の大洋として採用することにした。
「南極海は、科学者の間では以前から大洋として認識されていましたが、国際的な合意がなかったため、私たちは公式には大洋と認めていませんでした」と、ナショナル ジオグラフィック協会の地理学者アレックス・テイト氏は説明する。
協会の地理学者たちは、南極大陸を取り囲む水域が独自の名称に値するユニークな特徴をもっているのか、それとも単に太平洋、大西洋、インド洋を南に延ばした部分に過ぎない冷たい海なのかをめぐって議論してきた。
「私たちはある意味、地理オタクなのです」とテイト氏は言う。氏とナショナル ジオグラフィック協会の地図製作方針委員会は、科学者やマスコミが南極海という用語を使うようになったのを見て、何年も前からこの変更を検討していた。
今回の変更は、世界の海洋を保護するナショナル ジオグラフィック協会の取り組みに適うものであり、保護の必要性が特に高い水域に人々の関心を集めることができると氏は言う。
「私たちはこれまでもこの海に名前をつけて呼んできましたが、(他の海とは)微妙に異なる表記をしていました」とテイト氏は言う。「今回の変更は最後の一歩であり、他の海とは生態学的に切り離された大洋として認めたいという私たちの意思表示です」