高リスクのパイプライン、弱者の多い地域に偏って分布、米国研究

非白人コミュニティーや貧困地域にリスクが集中

2021.06.10
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米マサチューセッツ州にある天然ガスのパイプライン。同様のパイプラインが米国内に張り巡らされている。新たな研究によって、パイプラインが社会的に脆弱な地域に集中していることがわかった。(PHOTOGRAPH BY JESSICA RINALDI, THE BOSTON GLOBE/GETTY IMAGES)
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 米南東部ノースカロライナ州に「アトランティック・コースト・パイプライン」の敷設計画があると聞いたときのことをライアン・エマニュエル氏はよく覚えている。建設予定地は、氏が属するネイティブアメリカンのラムビー族が多く住む地域だった。

 この地域には、天然ガスの圧縮ステーションや他の大型パイプラインなど、化石燃料のインフラがすでに数多く存在していた。それなのに、なぜこれ以上の設備が建設されようとしているのかと、エマニュエル氏はいぶかった。この地に暮らす3万人の先住民にとって公平でも安全でもないのではないか。

 米ノースカロライナ州立大学の地理学者であるエマニュエル氏は、パイプラインの建設地をめぐり、ラムビー族をはじめとする先住民の声を届けるために何年も努力を続けた。氏は米国内で論争となっている他のパイプライン計画にも着目した。「キーストーンXL」「ダコタアクセス」「エンブリッジライン3」は、いずれも先住民のコミュニティーや文化的に重要な地域の近くを経由していた。

「こうした計画はいつも、社会から疎外されたコミュニティーで実施されているように見えました」とエマニュエル氏は言う。「不均衡があると知った私たちは、偏りがどの程度広がっているのだろうかと問い始めました」

 氏らは今回、全米に張り巡らされた全長約51.5万キロメートルの主要な天然ガスパイプラインが、米疾病対策センター(CDC)が公表する郡単位の社会的脆弱性指数(SVI)で特に脆弱とされる郡に偏っていることを明らかにした。論文は5月18日付けで学術誌「GeoHealth」に掲載された。

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パイプラインの分布が偏っている

 現在、米国内には全長320万キロを超える天然ガスパイプラインが敷設されている。そのうち約51.5万キロが、ガス田から処理場、さらにその先へガスを運ぶための「収集」または「伝送」パイプラインだ。これらは、家庭や企業にガスを供給するラインよりも高圧で太いことが多く、有害なガスの漏出や爆発などのリスクが高い。米運輸省によると、2001年から2020年にかけてパイプライン関連の事故で36人が死亡、164人が負傷し、事故関連のコストは25億ドル(約2700億円)を超えた。

 エマニュエル氏らのチームは、地域ごとのパイプラインの密度を計算し、CDCが公表する社会的脆弱性指数(SVI)と比較した。 SVIとは、CDCが国勢調査のデータを用いて、人災や自然災害に対するコミュニティーの回復力を評価し、郡ごとに0〜1(1が最も脆弱)で表した指数だ。住民の人種や社会経済的地位、世帯における高齢者や幼い子どもの有無、住宅の種類とそこに住む人数、英語力などが考慮されている。

 分析の結果、最も脆弱な25%の郡は、最も脆弱でない25%の郡に比べてパイプラインの密度が平均で7割弱高く、100平方キロあたり約7.5キロのパイプラインが敷設されていることがわかった。中でも、最も脆弱な上位1%の郡においては、100平方キロあたり約50キロものパイプラインが敷設されていた。

「脆弱な郡ほどパイプラインのネットワークが密集していることが非常に明確です」とエマニュエル氏は語る。

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