高リスクのパイプライン、弱者の多い地域に偏って分布、米国研究

非白人コミュニティーや貧困地域にリスクが集中

2021.06.10
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化石燃料にまつわる不平等

 研究者たちは1970年代から、環境問題にまつわる不平等の例を体系的に調査してきた。そして、廃棄物処理場や埋立地といった環境に有害な施設は、富裕層や白人層が多い地域よりも、脆弱なコミュニティーに建設されやすいことが繰り返し明らかにされてきた。

 石油や天然ガスのインフラも例外ではない。例えばカリフォルニア州では、白人が少ない地域に油井やガス井が設置されることが多い。またテキサス州では、油井から出る余分な天然ガスを燃焼させることが一般的に行われており、近隣のヒスパニック系住民が健康被害を被っている。

「気候正義の研究者や活動家の間では、米国の低所得有色人種コミュニティーが化石燃料産業の影響を受けやすいことは、長らく認識されてきました」と、米南カリフォルニア大学の環境衛生専門家ジル・ジョンストン氏は語る。パイプラインのリスクについてはこれまで十分に検討されてこなかったが、今回の分析によって、「増え続ける負担のしわ寄せが大きく及ぶコミュニティーを優先する」必要があることがはっきりしたという。

無視できない負の遺産

 このような不均衡が生じたのは、企業が意図的に有色人種コミュニティーに多くのパイプラインを敷設したからだとは必ずしも言えない。米リッチモンド大学の地理学者メアリー・フィンリー・ブルック氏によれば、パイプラインのルートは「抵抗の少ないところを通る」ことが多く、そのような場所は大抵、土地が安いという。

 しかし、そうした土地が安いのは多くの場合、差別的な慣行の歴史があるからだ。例えばバージニア州中部のユニオン・ヒルは、南北戦争後に解放された奴隷が設立したコミュニティである。しかし、黒人の所有地や共有財産の価値を過小評価する政策のせいで資産価値が低くなっていた。ユニオン・ヒルには、元奴隷所有者から土地を購入した自由黒人たちが、共同で子孫に引き継いだ土地が多い。また、町の近くに大規模なインフラが建設されたこともあり、資産価値はさらに低下したとフィンリー・ブルック氏は言う。

 だが、このようなパターンが明らかになった以上、その原因と影響を検証する必要があると、先住民団体「ユナイテッド・ホーマ・ネイション」のメンバーであジェシカ・パルフェ氏は語る。「汚染源やリスクを抱える場所が偏っているのは偶然ではないということを認識する必要があります。多くの歴史的背景があるのです」

 しかし、パイプラインの時代が終わる気配はない。米国の天然ガス生産量は2006年以降ほぼ毎年増加しており、それに伴って新たなパイプラインの計画が急増している。米ペンシルベニア州立大学の社会学者ヨハン・シュトルーベ氏らが調べたところ、全米で80件以上、全長計300キロを超えるパイプラインの計画が存在するという。

「現在は大部分のパイプラインが脆弱なコミュニティにある、という遺産があります」と氏は語る。「私たちは今、新しいパイプライン、新しいエネルギーシステム、新しい経済を計画するにあたって、この遺産に対処しなければなりません。新しく建設されるパイプライン計画は、この遺産を覆すだけのことを行っているでしょうか?」

文=ALEJANDRA BORUNDA/地図=RILEY D. CHAMPINE/訳=桜木敬子

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