米国で競走馬のドーピングが絶えないのはなぜか?

ケンタッキーダービー優勝馬が禁止薬物、米国競馬界の問題点は

2021.06.09
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 そのほか問題となっているのは、痛みを軽減する薬だ。有名なところではベタメタゾンのような抗炎症性コルチコステロイド、非ステロイド剤のフェニルブタゾンなどがある。これらの鎮痛薬は、けがから回復中の馬には役立つものの、レース時の使用には危険が伴う。

「これらは必ずしも走りを向上させるのではなく、とにかく走らせるための薬だと思います」とロビンソン氏。けがをしていても、薬のおかげで走り続けられるからだ。

「傷があっても馬自身が感じなければ、本来できないはずの無理をしてしまい、その結果重篤な外傷を負ってしまう可能性があります」

 最近の研究によれば、大きな骨折をする馬の90%に、元から骨疾患があるという。だからこそ、獣医が疾患の兆候に気づけることが重要だとスコレイ氏は強調する。ところがコルチコステロイドは、これを妨げてしまう。「私たちはこのような薬物を禁止しようとしているのではありません。馬を守るために、使い方を規制しようと言っているのです」(参考記事:「米国伝統の犬レースが消滅へ、背景にドーピング、不正な殺処分の歴史」

国による規制が行われていない

 米国には現在、国による競馬の規制機関が存在しない。各州の競馬委員会が独自のアンチドーピング規則を定め、薬物検査、調査から処罰まで、違反者の処分に関する独自の制度を整えている。

 しかし2020年12月に、連邦の競馬公正安全局を設立する法律が議会で可決された。この法律が施行される2022年7月1日に、同機関によって規則、検査、執行などの国家規格が策定される。

「ようやくです」とスコレイ氏は話す。長年、州によって規則が異なることが混乱を招いてきた。「調教師には手に負えない難問でした。失敗もするでしょう」

 その一方、不正を企む人にとっては、州ごとに異なる規則は規制を回避し、あるいは規制のゆるい州のレースを探し出すことを助けるものだった。たとえば、血液検査しか行わない州では、尿や毛髪からしか検出されない薬物は見つけることができない。

ほかに必要なことは?

 しかし、規制が進めば、それを回避する手段も進む。新たな合成薬とその検出方法を把握しておくことは絶え間ない闘いだと、ロビンソン氏は言う。

「薬剤が開発され続けていれば、新たな薬物の乱用が始まる機会もあるということです」

 その上、近年では遺伝子治療の飛躍的な進歩により、獣医は治癒や骨の成長を促進するタンパク質を細胞に生成させるという方法も使えるようになってきた。これは治癒的価値がある反面、競走馬に(人間のスポーツ選手にも)遺伝子ドーピングという新たな手法が導入される危険もはらんでいる。

 従来は、こうした遺伝子ドーピングを検出する方法がなかったが、今年2月、ロビンソン氏の研究チームが新たな検査方法を開発したと発表した。

 またスコレイ氏は、ドーピングを減らすもうひとつの方法は、継続的な啓発を一層重視することだと述べ、これを運転免許にたとえる。数年ごとの運転免許更新時には、改めて試験を受けて交通規則を忘れていないか、改正内容がわかっているかを確認する必要がある。しかし競馬の免許については、そのような仕組みがある州はほとんどない。

「業界として、これまで関係者を教育するための施策をあまりしてきませんでした」とスコレイ氏は言う。「間違いを犯さないことを期待しながら、それを助ける道具を用意してこなかったのです」

参考ギャラリー:馬上で戦うアフガニスタンの国技「ブズカシ」 写真17点(画像クリックでギャラリーへ)
アフガニスタンで古くから行われている国技「ブズカシ」は、ヤギや子牛の死骸をボール代わりにして奪い合う競技だ。しかし、反政府勢力タリバンの存在がブズカシの試合開催を脅かしている。(写真=BALAZS GARDI)

文=Amy McKeever/訳=山内百合子

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