SARS-CoV-2のようなウイルスのルーツをたどるには、何年もかかるのが普通だ。WHOが3月に発表した報告書では、その起源はほぼ明らかにされていないものの、「あるシナリオが他のシナリオよりも可能性が高いと言えるだけの十分な証拠はあると思います」と専門家の1人は言う。(ILLUSTRATION BY NIAID)
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 6月6日時点で1億7200万人以上が罹患し、370万人の命を奪った新型コロナウイルス感染症(COVID-19)。原因となるウイルスは、どのような経路をたどって動物から人間へと感染したのか。その起源を探る調査が続けられている。

 米バイデン政権は5月26日、国内の情報機関に対し、動物からの感染から新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)を含む野生由来のサンプルを研究していた実験室からの流出した可能性まで含めて、経路をより詳しく調べるように指示した。

 これまで、新型コロナウイルスの起源について行われた最大の調査報告は、3月30日に世界保健機関(WHO)が発表したものだ。このときは国際的な研究者チームが中国を訪れ、最初のアウトブレイク(集団感染)につながった可能性がある4つの経路を調査した。

 しかし、それから数週間のうちに、世界各国の政府は、調査員が完全なデータにアクセスできなかったことに懸念を表明した。科学者たちもまた、ウイルスがどのようにして発生したのかについて、この報告書ではほとんど明らかになっていないと述べている。

 研究者がウイルスのルーツをたどろうとしても、何年もかかるのが普通であり、すぐに決定的な答えを出すことは不可能だと、米ジョージタウン大学医療センター国際保健科学・安全保障センターのウイルス学者、アンジェラ・ラスムセン氏は言う。しかし、今回のケースでは、「あるシナリオが他のシナリオよりも可能性が高いと言えるだけの十分な証拠はあると思います」という。

 研究所流出説が再び注目を集めるいま、WHOの報告書で示された4つの説に関する証拠と、新型コロナウイルスの起源として専門家がそれらをどう捉えているかをあらためて見てみよう。

1. 自然宿主である動物から直接ヒトへ感染した

WHOの評価:「可能性がある~可能性が高い」

 1つ目の説は単純で、新型コロナウイルスが動物(おそらくコウモリ)において発生し、それが人間と接触して感染、人間の間で広がり始めた、というものだ。

 WHOの報告書では、2003年のSARS(重症急性呼吸器症候群)の流行を引き起こしたウイルスを含め、人間に感染するコロナウイルスのほとんどが動物由来であることを示す強力な証拠が引用されている。コウモリが原因だった可能性が高いとされているのは、新型コロナウイルスと遺伝的に近いウイルスをコウモリが保有しているからだ。

 報告書では、センザンコウやミンクから広まった可能性も認めている。しかし、英グラスゴー大学でウイルスゲノミクス・バイオインフォマティクス(生命情報学)分野を率いるデビッド・ロバートソン氏によれば、WHOの共同チームは報告書の作成にあたり、コウモリ以外にも多くの動物のサンプルを採取しているという。そのうえで、分析の結果、コウモリが病原巣(自然宿主)とされた。

「そうなると、問いは、コウモリから人間にどうやって感染したのかということです」と同氏は言う。「誰かがコウモリのいる地域に行って感染し、それから武漢行きの列車に乗ったのでしょうか」

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