新型コロナの起源、WHO報告書の4つの可能性を再検証

野生動物による感染から流出説まで、米バイデン政権が詳しい調査を指示

2021.06.07
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 5月23日、米ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、武漢ウイルス研究所の研究者3人が、2019年11月に病院で治療を受けたという情報を米国が入手したと報じた。これが、1月にトランプ政権の国務省が行った主張につながった可能性がある。ただし、国務省は武漢の研究者の症状が 「新型コロナウイルス感染症と一般的な季節性疾患のいずれにも一致する」とも述べていた。

 ルーシー氏は4月、WHOの報告書が発表された際、動物から感染するより可能性は低いものの、流出説にもっともらしさはある、と語った。武漢の研究所に対する法医学的な調査が行われていないことを指摘して、同氏は次のような疑問を呈している。すなわち、そうした調査を行う権限も、それを実行するための専門知識を持ったチームメンバーもいないのに、なぜWHOは今回のチームに研究所を調査させたのか、だ。

 ラスムセン氏もこれに同意する。「今回の報告書の内容では、研究所からの流出説が正しいと証明することも、正しくないと証明することもできません」。この問題を解明するには、新型コロナウイルスの祖先にあたるウイルスを探すために、法医学的見地から研究所の記録を監査する必要がある、と同氏は指摘する。「ただ、流出説は、絶対にないとは言えませんが、可能性は低いというのが私の意見です」

 新型コロナウイルスが遺伝子操作の結果であるという証拠はないし、偶然に作られた可能性が高いわけでもない、とラスムセン氏は説明する。コウモリから人間に感染するほどの強いウイルスを培養することは、非常に困難だというのだ。一方、同じようなウイルスは自然界には普通に存在するので、そちらである可能性のほうがはるかに高い。

 ロバートソン氏いわく、研究所からの流出説を支持する人たちは、新型コロナウイルスが自然界で発生したものにしてはあまりにも迅速かつ効率的に人間の間で広まったと主張している。しかし、ゲノム調査が示すように、このウイルスがそもそも多くの動物の種に感染するものであれば、人間への感染が非常に効率的に起こっていることは驚くに値しない、と同氏は言う。

「人間に感染するために、大きく変化する必要はなかったということだと考えられます」

起源解明へのロードマップ

 WHOの報告書は、新型コロナウイルスの起源についてあまり明らかにしていないかもしれない。ロバートソン氏によれば、この報告書は、長くかかる可能性のあるプロセスのほんの始まりにすぎない。しかし、より厳密な追跡調査を開始することは、公衆衛生上の急務であると同氏は言う。「SARS-CoV-2に非常に近いウイルスが、どこかに存在しているのです。それが恐ろしいことなのです」

 WHOの報告書は、ウイルスの起源を明らかにするさらなる研究のロードマップを示しているとラスムセン氏は言う。報告書では、農場などで飼育されている動物の監視を強化して、ウイルスの感染源や中間宿主となる可能性のある動物を特定することや、中国国内だけでなく東南アジアなどでも近縁のコロナウイルスが広まっていることから、コウモリのサンプリングを強化することを推奨している。また、新型コロナウイルス感染症の最初の症例について、詳細な疫学調査を行うことも推奨されている。

 アウトブレイクがどのようにして起こったかを知ることで、科学者や政府は、動物や食料の流通経路における感染の監視や、研究所における安全基準を改善して、感染防止策を強化することができる。

「このパンデミックの理由を説明してほしい、誰かが責任を取るべきだ、との一般的な認識があるようです」とラスムセン氏は語る。「しかし、私たちが原因を解明しなければならない理由は、このようなパンデミックが再び起こらないようにするためです」

文=AMY MCKEEVER & MICHAEL GRESHKO/訳=桜木敬子

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