新型コロナの起源、WHO報告書の4つの可能性を再検証

野生動物による感染から流出説まで、米バイデン政権が詳しい調査を指示

2021.06.07
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3. 冷蔵・冷凍食品からの侵入

WHOによる評価:「可能性がある」

 もう1つの説は、ウイルスがコールドチェーンと呼ばれる冷凍・冷蔵食品の流通経路を経由して人間に持ち込まれたというものだ。新型コロナウイルスが中国以外の国で発生し、食品パッケージの表面または食品自体に付着して輸入された、とする説だ。

 この説は、昨年の夏に、中国で何度かアウトブレイクが発生した後に広まった。その後、新型コロナウイルスは低温下でより長く生存できることを示唆する証拠も出てきている。

 しかし、コールドチェーンが新たな流行の発生に一役買った可能性はあるものの、パンデミックの起源がコールドチェーンにあると考える根拠はほとんどない、と科学者たちはみる。新型コロナウイルスが食品から広がったという直接的な証拠はなく、ラスムセン氏はまた、同ウイルスが物の表面から感染することは稀だとも述べる。

「不可能ということではありません」と同氏は言う。「可能性を排除することはできませんが、この説を支持する根拠が特に有力だとは思えません」

 ラスムセン氏によれば、ウイルスが食料の生産から販売までの過程で広がる経路としては、人間が食べるために飼育された野生動物を介して広がる可能性の方があり得るという。これは中間宿主説の領域に入ると同氏は話す。

 コールドチェーン説は、中国から他の国に疑いの目を向けさせるための主張だとみる評論家もいる。ルーシー氏は、調査が行われた4つの経路の中で、これが最も可能性が低いと考えている。ヨーロッパやその他の国から輸入されるまでの間、包装資材の上でウイルスが生存し続けることはあり得ないというのだ。また、なぜこれらの感染症が他の地域ではなく武漢で発生したのかも疑問だという。

「私に言わせれば、荒唐無稽な話です」

4. 研究所からの流出

WHOによる評価:「極めて可能性が低い」

 新型コロナウイルスの起源に関して最も議論を呼んでいる仮説は、コウモリのコロナウイルスを研究している武漢の研究所からウイルスが漏れたというものだ。現段階では、流出事故説を支持する証拠、否定する証拠のいずれも十分でないと科学者たちは指摘している。

 流出事故説には、研究者が実験室で誤って感染したというものと、研究者がSARS-CoV-2の系統を人工的に作りだしていたという2つのバージョンがある。後者の「人工的に作り出した」説は、今のところ研究者たちによって完全に否定されている。遺伝学的に見て、自然に発生したウイルスであることが分かっているためだ。WHOが調査したのは、野生のサンプルを研究していた研究所から、ウイルスが誤って漏れた可能性だ。

 武漢ウイルス研究所では、人獣共通感染症の人間への感染を防ぐ研究が行われており、その一環として、SARS-CoV-2に96.2パーセント一致し、最も近縁なコウモリ由来のコロナウイルスRaTG13の塩基配列が決定されていた。また、武漢市疾病対策センターが運営する別の研究所でも、コウモリのコロナウイルスの研究が行われていた。

 WHOの報告書によれば、過去に研究所からウイルスが流出することはあったものの、そうした事故は稀であるという。また、武漢のどの研究所においても、2019年12月に新型コロナウイルス感染の最初の症例が診断される前に、SARS-CoV-2に近いウイルスが扱われていた記録はなく、またスタッフが新型コロナウイルス感染症らしき症状を報告したこともないという。

次ページ:法医学的見地から研究所の記録を監査する必要がある

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