コロナ変異株の名称をWHOが発表、ウイルス名はどう決まる?

地名を含む名称は差別を助長、科学的にも不正確、ギリシャ文字名に

2021.06.03
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 2015年、WHOは、地名、人名、動物の種名を感染症の名称に用いないよう提言するガイダンスを発表した。2020年にも、新型コロナウイルスによる感染症の名称を決定する際、WHOは中国や武漢への言及を避け、COVID-19(Coronavirus disease 2019の略)と名付けた。

 だが、それでもアジア人への差別を防げなかったと、米ジョンズ・ホプキンス大学の助教で医学史と社会学を研究するアレキサンドル・ホワイト氏は指摘する。ドナルド・トランプ前米大統領など一部の著名人が、「中国ウイルス」「武漢ウイルス」と呼び続けたことも影響している。

「COVID-19と中国との関連や、それにまつわる悪いイメージが、世界中でアジア人への憎悪犯罪を助長したことは間違いないでしょう」。似たようなことは、以前にも起こっている。昔から、感染症の拡大は人種差別や外国人差別を正当化する材料に使われてきた。

最初に確認された場所は発生した場所ではない

 科学的な観点からも地名の使用は避けるべきだ。誤解を招くし、最悪の場合は全く事実に反することもある。

 実際のところ、南アフリカ型と呼ばれる変異株がどこで発生したのかは、科学者にもわかっていない。最初に検出されたのは確かに南アフリカだが、最初に変異が生じた患者はいまだに特定されていない。南アフリカが他の国よりも多くの遺伝子解析を行ったから変異が見つかったというだけで、実はその前にどこか別の国から入ってきた可能性もあるのだ。

 しかも、この変異株は世界中に広がり、今では米国のほうが南アフリカよりもはるかに感染者数が多い。「そう考えると、南アフリカ型という言い方がいかに理不尽かわかるでしょう」と、アブドゥール・カリム氏は言う。

 不正確な名称をつけたことによる影響は、現実に現れている。米国は今年初め、南アフリカ、ブラジル、英国からの渡航者へ入国制限をかけた。名称をめぐる影響が、長期にわたって後を引きずることもある。1918年に世界的に大流行したインフルエンザは、最初の症例が米国で報告されたにもかかわらず、「スペインかぜ」という名で広く知られていることから、発生から1世紀以上たった今もスペインが起源だと思い込んでいる人が多いと、ホドクロフト氏は指摘する。

「病原体を命名する際の決まり事はありません」

 疾患の名称を決めるのはWHOだが、ウイルス名はウイルス学者と系統学者で構成される国際ウイルス分類委員会(ICTV)によって決定される。

 2020年2月、ICTVは当時2019年新型コロナウイルス(2019 novel coronavirus)と呼ばれていたウイルスをSARS-CoV-2(重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2の略)と改名した。米アイオワ大学の微生物学者でICTVのコロナウイルス研究会の一員でもあるスタンリー・パールマン氏によると、2003年に流行したSARSのウイルスSARS-CoVに遺伝的に近かったため、この名称を採用したという。

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