砂漠の井戸掘りに関する包括的な研究は今回が初めてだが、この行動はオーストラリアやカナダのウマやゴビ砂漠のロバ、さらに、コヨーテやアフリカゾウといった種でも確認されている。(参考記事:「ゾウの足跡がカエルを育てる、研究」)
ボーガン氏はこの行動について、比較的浅い場所に地下水が存在する砂漠で広く見られるのではないかと考えている。ボーガン氏自身は、アリゾナ州から国境を越えたすぐ南にあるメキシコのピナカテ火山とアルタル大砂漠生物圏保存地域に暮らすロバの井戸掘りを見たことがある。
筆者(ダグラス・メイン氏)自身も同じ地域で、必要なときに水を掘り当てられることをじかに体験して知った。アリゾナ州を流れるサンペドロ川の近くで仕事をしていた私は、宝石のようにきらめく緑色の甲虫を見つけた。その甲虫を優しく拾い上げると、悪臭を放つ化学物質を手に浴びせられた。水道もない辺境だったため、その場で何とかするしかない。そこで、干上がった地面を30センチほど掘ってみると、水が湧き出し、無事に悪臭を洗い流すことができた。
正当な評価のきっかけに
ランドグレン氏によれば、1万年以上前の更新世には、ウマ科やラクダ科の数種が北米に生息していたが、その後すべて絶滅したという。現代の野生に暮らすウマやロバは、こうした古代の動物が担っていた生態系サービスを代行している可能性があるとランドグレン氏は考えている。
これは野生に暮らすロバやウマを再評価する理由になるとランドグレン氏は話す。野生にいるロバやウマは厳密には在来動物ではないという理由で過小評価されがちだ。米土地管理局(BLM)は、野生下に約9万頭いるロバとウマを管理しているが、過去には個体数を抑制するため、駆除などの手段を用いていた。また、連邦政府は多額の予算を投じ、西部全域で5万頭を飼育している。こちらも当初の目的は野生の個体数の抑制だった。
米カリフォルニア州立大学サクラメント校環境学部の学部長を務める野生生物学者のウェイン・リンクレイター氏も、今回の研究をきっかけに、野生下にいるウマやロバに対する見方が変わるのではないかと考えている。
「たとえ人によって導入された種だとしても、彼らは極めて重要な生態学的な役割を果たしています」。それでも、BLMはウマやロバの個体数を減らしたいと考えている。
「この論文は、そうした伝統的な自然保護論者に対して非常に挑戦的な内容です」とリンクレイター氏は話す。「伝統的な自然保護論者は、導入されたすべての種を侵略的で異質なものと見なしたがっているのです」
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