人類は昔から井戸を掘ってきた。だが地中の水を利用するのは人類だけではない。最新の研究により、野生で暮らすウマとロバも井戸を掘ること、それが動物たちのオアシスになっていることがわかった。
4月30日付の学術誌「Science」に掲載された論文によれば、これらのウマやロバは地下水を利用するため、ひづめで深さ2メートル近い穴を掘り、その穴にアナグマやフクロウなど多様な動物たちが集まってくるという。
家畜だったウマとロバは何百年も前に野生に導入され、米国西部に広く生息している。論文の筆頭著者であるデンマークのオーフス大学の博士研究員エリック・ランドグレン氏は、ウマやロバによって掘られた井戸が「動物たちの活動拠点」になっていると話す。
井戸の様子を観察
研究チームは3年にわたり、夏の間、米国アリゾナ州にあるソノラ砂漠の4カ所とカリフォルニア州にあるモハーベ砂漠の1カ所にカメラトラップ(自動撮影装置)を設置した。いずれも季節によっては川が流れる場所だ。ロバは4カ所に足しげく通って井戸を掘り、ウマは残りの1カ所で同じことをしていた。どちらも穴掘りの名手で、主に前脚で砂や砂利を後ろへかき出す。
ロバとウマが掘った井戸には、合わせて57種の動物が水を飲みに訪れた。アカオノスリやクーパーハイタカなどの猛禽、キイロアメリカムシクイやムナグロムクドリモドキ、アメリカカケスなどの小鳥、ミュールジカやビッグホーン、アナグマなどの大型哺乳類、さらには、コロラドリバーヒキガエルもやって来た。
研究チームは対照地点として、井戸がない場所にもカメラを設置した。その結果、井戸で確認された種の豊かさは対照地点より64%高く、動物たちが意図的に井戸を訪れていたことを示した。また、一帯の水源をマッピングしたところ、ロバやウマが井戸を掘ったことで、アクセス可能な水源が最大14倍に増えていることがわかった。さらに、いくつかの井戸では樹木の発芽が確認され、これらの場所が、砂漠の植生に貢献している可能性が示された。
米アリゾナ大学の水圏生態学者マイケル・ボーガン氏は、今回の研究について、「(ウマやロバが)どれくらいの水を周囲にもたらしているか、そして、それがどのように分配されているかを実際に数値化した点が素晴らしいと思います」と第三者の立場で評価している。
ランドグレン氏によれば、この行動は「生態系エンジニアリング」の定義に当てはまるという。生態系エンジニアリングとは、野生動物が周囲の環境を変化させる現象のことだ。よく知られている例では、ビーバーがダムをつくることで、種の多様性が高まる、地下水面が上がる、山火事の被害が減るといった変化が起きる。(参考記事:「ビーバーのいる森は火災に強い、研究」)
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