ソマリの伝統的なラクダ飼いが、気候変動で存続の危機に

近年の干ばつの増加でラクダが激減、村人たちは今後の暮らし方を変えようと考え始めた

2021.06.06
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
ソマリランド北部の村ヒジーンレで、アダル・マハメドさんのベールを口で引っ張る生後5カ月の子ラクダ、バルード。(PHOTOGRAPH BY NICHOLE SOBECKI)

 東アフリカの国ソマリア北部にある自治区ソマリランド。首都機能のある都市ハルゲイサから320キロほど離れた海岸沿いのヒジーンレ村は、人口200人ほどの小さな集落だ。村人は、集めた枝を組んで布をかぶせた小屋に住み、古来より受け継がれたラクダ飼いの伝統を守って、半遊牧の牧畜生活を営んでいる。 (参考記事:「高野秀行 第1回 超速とカート宴会の国」

「ここでは、人間とラクダがお互いを理解しあっています」。2019年12月のある朝、ラクダ飼いのラシード・ジャーマクさんは、村の海岸でラクダの乳を搾りながらそう話してくれた。自分でははっきりした年齢はわからないが、おそらく50歳くらいだろうというジャーマクさんは、そこにいた数百頭のラクダのうち52頭を所有している。ジャーマクさんの膝に挟んだ円錐形の容器に、搾りたての乳が溜まっていく。

 厳しい環境に生きる村人は、ラクダ以外にもヤギ、ヒツジ、ウシを飼っているが、「ソマリ人が最も好きなのは、ラクダです」と、ジャーマクさんは言う。ラクダの乳は、昔からソマリ人の食卓に欠かせなかった。だが、その肉を食べるのは、自然死しようとしているラクダを殺したときだけだ。

 昔から、人間とラクダは互いを必要とし、強い愛情で結ばれてきた。ジャーマクさんのラクダは、放牧から戻ってくるとジャーマクさんを認識し、まるでペットのように好意を示すという。 (参考記事:「【動画】サボテンを食べまくるラクダ、なぜ平気?」

「もしラクダを飼っていなかったら、ソマリの文化は存在しません」

 ところが今、そのソマリの人々とラクダの関係が、危機にさらされている。

ヒジーンレ村の砂浜に集まったラクダたち。 (PHOTOGRAPH BY NICHOLE SOBECKI)

 ソマリランドがある「アフリカの角」と呼ばれる地域では、昔から周期的に干ばつが訪れていたが、ここ30年ほどは雨がほとんど降らない年が増え、災害から完全に復興する前に次の災害に襲われるという悪循環に陥っている。2015年以降は毎年のように干ばつが発生し、家畜が大きな打撃を受けた。木や草は枯れ、村人たちはラクダの飲み水を求めて何日もさまよい歩く。どこかに水があるという噂を聞き、ラクダの群れを引き連れて行ってみたら、水は干上がっていたということもあった。数週間のうちに数百頭のラクダがバタバタと死んでいくのを、ただ手をこまねいてみているしかなかった。草むらにラクダの骨が点在する風景が、今では当たり前になっている。 (参考記事:「ソマリア、干ばつで大量餓死の危機高まる」

 干ばつのため、数十万ものソマリ人が域内避難民キャンプや、ハルゲイサなど大都市への移住を余儀なくされている。仕事を求めて域外へ出る人も多い。数は不明だが、ヨーロッパへ渡ろうとして人身売買の罠にはまる人々もいるという。 (参考記事:「困窮するソマリランド、女性たちを追い詰める性暴力と人身売買」

ギャラリー:ソマリランド襲う深刻な干ばつ、ラクダへの被害で苦しむ村人たち 写真9点(画像クリックでギャラリーページへ)
ヒジーンレ村の小屋の前で、生後10日の子ラクダに鼻をこすりつける母親ラクダ。 (PHOTOGRAPH BY NICHOLE SOBECKI)

次ページ:ラクダこそ生活

おすすめ関連書籍

世界の天変地異 本当にあった気象現象

豪雨、豪雪、暴風、干ばつ、極寒、稲妻など、世界各地で見られる天変地異。迫力のある写真と、それぞれの状況を伝えるわかりやすいキャプションで、読む人に畏怖の念を抱かせる1冊。

定価:2,970円(税込)

  • このエントリーをはてなブックマークに追加