地球温暖化は間違いなく、サンゴ衰退の重要な原因となるため、私たちはそれを抑制する努力を続けなければならないとドノバン氏は述べる。一方で今回の研究は、局所的な対策を打つことで被害を食い止められる可能性も示唆している。
「海藻が増えすぎるのは、汚水や浄化槽の水が海の近くの地中に漏れ出しているためかもしれません。農地やゴルフ場の水が流出していることも考えられます」とドノバン氏は説明する。汚染の原因を発生源から断つことができれば、近くのサンゴ礁の回復力を高められる可能性が高い。
海藻を食べる生物を捕らないことも大切だ。海藻を食べる魚を捕ることを制限する試みは、米ハワイ州マウイ島の沖合にあるカヘキリ草食魚管理区域などで行われている。「私たちは、ハワイ州内の他の自治体とも連携して、漁場を管理する取り組みを行っています」とドノバン氏は話す。十分な数の魚がいれば、ウニが増えすぎることもないという。
米スミソニアン国立自然史博物館のサンゴ礁生物学者ナンシー・ノールトン氏も、このような局所的な取り組みがサンゴ礁にとって非常に重要だと述べている。なお、氏はこの研究には関与していない。「地元の人々が海洋保護を自分ごととしてとらえ、それが利益につながると実感してくれなければ、保護が成功することはないでしょう」(参考記事:「サンゴ礁に美しい未来を」)
海鳥の繁殖が成功しにくくなっている
当然ながら、魚を食べるのは地元の人々だけではなく、巨大漁船による商業漁業は世界の海に広がっている。「Science」に掲載されたもう一つの論文は、北半球と南半球の海鳥を比較、温暖化が進行する中で、商業漁業によって海鳥が生きづらくなっている可能性を示唆した。
研究チームが分析したのは、海鳥のひなに関する122のデータセット。1966年から2018年にかけて66種の海鳥の巣を綿密に観察し、巣におけるひな鳥の平均の数を調べたデータだ。分析の結果、魚を食べる海鳥について、北半球と南半球で大きな違いがあることがわかった。北半球の海鳥では、巣1つ当たりの(育てるのに成功した)ひな鳥の数が顕著に減っていたのだ。これは、鳥の生息数自体の減少に影響する可能性がある。
「北半球は、温暖化のペースが速いだけでなく、漁業や汚染といった人為的な圧力の影響も比較的強く現れています。そのため、どれが大きな影響を与えているかをこのデータから特定するのは困難です」と、この研究を主導した米カリフォルニア州にあるファラロン研究所の生態学者ウィリアム・サイドマン氏は述べる。
しかし、魚を食べる鳥への影響が大きいことから、そこに問題の核心があることが考えられる。「プランクトンを食べる鳥のほとんどでは、ひな鳥の数は減っていません」
気候変動やその他の人為的な圧力のもとで、海鳥が魚を見つけにくくなるのはなぜか。サイドマン氏によると、それには様々な可能性がある。海が温かくなると、魚は涼しい場所に移動しようとするため、鳥は営巣地から遠くに行ったり深く潜ったりしなければ魚が捕れなくなるかもしれない。「ミツユビカモメなど、それができない種もいるのです」と氏は指摘する。