17年ゼミの大発生始まる、動物たちの反応は?

セミ発生で何が起きるのか、「大きな科学実験」のチャンス

2021.05.30
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 動物園の動物については、餌のほかにどの程度の量のセミを食べてしまうかが気になるところだ。「数十匹なら食べても心配ありませんが、何百匹も食べるのは問題です」とマスランカ氏は言う。

 セミはタンパク質と脂質を豊富に含んでいるが、外皮や羽などの外骨格は硬いキチン質でできているため、大量に摂取すると消化が悪くなるのだ。

 飼育員は動物の体重や行動をモニターし、セミを大量に食べているようなら食事を調整する。マスランカ氏のチームは、セミの幼虫の栄養価を調べることにしている。

「コロナ禍がなければ、各展示場の動物たちがどのくらいセミを食べているか、ボランティアの方たちに観察してもらうことができたのですが」とマスランカ氏は言う。パンデミック(世界的大流行)の影響で、動物園は昨年11月から来園者やボランティアの立ち入りを禁止していて、5月21日に通常営業を再開したばかりなのだ。

街中の木に、こうしたセミの抜け殻が無数についている。セミの幼虫は地上に出てきて間もなく羽化し、成虫になる。(Photograph by Rebecca Hale)
街中の木に、こうしたセミの抜け殻が無数についている。セミの幼虫は地上に出てきて間もなく羽化し、成虫になる。(Photograph by Rebecca Hale)
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園内の動物たちの様子

 再開初日の朝、私(著者のNatasha Daly)は動物園を訪れた。タテガミオオカミのにおいがした。タテガミオオカミは縄張りを示すためにスカンクのおならのような強烈なにおいの尿をするので、見る前からその存在がわかる。近づいてみると、タテガミオオカミが草むらを夢中で掘っていて、おそらくセミを食べていた。

 園内の道をさらに進むと、セミを食べすぎてお腹がいっぱいになったのか、アカカワイノシシがぐっすりと眠っていた。

 その先で飼育員のダイアナ・ボーゲル氏に会った。彼女はバケツを下げていて、中にはビーバーの生息地で集めてきたというセミがいっぱいに入っていた(草食のビーバーはセミに興味がない)。

 私たちは一緒に歩いていった。彼女が途中でアカオタテガモの池にセミを数匹投げ入れると、カモたちはあっという間に食べてしまった。ワタリガラス舎を通り過ぎるとき、ボーゲル氏は、ワタリガラスたちがいつもよりさかんに穴を掘っていると言った。「セミの幼虫を見つけたのでしょう」

 カワウソ親子のところに行くと、2匹は池の中でくるくると宙返りをしていた。ボーゲル氏は、カワウソ用のおもちゃと一緒にセミを置いた。カワウソたちはセミに駆け寄り、早速、なぶり始めた。

セミの一生

 17年間も地中で木の根の樹液を吸って平和に過ごしてきたセミにとって、地上での生活は過酷である。翅が破れ、脚が折れ、胴体の一部が欠けた状態でよろよろと歩いているものもいる。あるものは鳥の餌となり、あるものはカワウソの遊び道具となる。その死骸は落ち葉のように道に散らばる。

羽化したばかりのセミは、体がまだ柔らかく、クリーム色をしている。数時間後には外骨格が固まり、色が黒っぽくなる。(Photograph by Rebecca Hale)
羽化したばかりのセミは、体がまだ柔らかく、クリーム色をしている。数時間後には外骨格が固まり、色が黒っぽくなる。(Photograph by Rebecca Hale)
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 羽化したときと同様、彼らは一斉に死んでゆく。周期ゼミの強みは個体ではなく集団にある。アカカワイノシシにどれだけ食べられようと、車のタイヤにどれだけ踏み潰されようと、ブルードXのセミたちは十分な数だけ生き残って交尾をし、卵を産み、次の世代が生まれてくる。ワシントンD.C.の生態系が彼らにとって好ましいものであり続けるなら、私たちは2038年に再び彼らに会うことになるだろう。

 科学者であるラウチ氏とマスランカ氏にとって、17年に1度のセミの出現は刺激的な出来事だ。「最高にクールな現象です。園内の動物たちが行儀よくしてくれている限りはね」とマスランカ氏は言う。

 少なくともチーターたちは冷静だった。草の生えた斜面で寝そべっている彼らは周囲の様子に無頓着で、セミの侵入にも気づいていないように見えた。展示場の前では2人の幼児がチーターに背を向け、道に落ちている1匹のセミに目を奪われていた。

 しゃがみ込む子どもたちを母親が説得していた。「セミはおうちの庭にもいるでしょう? ほら、チーターを見なさい!」

ギャラリー:2021年は「当たり年」、米国で17年に一度のセミの大発生 写真8点(写真クリックでギャラリーページへ)
ギャラリー:2021年は「当たり年」、米国で17年に一度のセミの大発生 写真8点(写真クリックでギャラリーページへ)
木製のフェンスにとまった「ブルードX」の周期ゼミ。2004年、米メリーランド州で。周期ゼミは、17年に一度地上で大発生する。(PHOTOGRAPH BY DARLYNE MURAWSKI)

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文=Natasha Daly/写真=Rebecca Hale/訳=三枝小夜子

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