トリエステ 脚光を浴びる港町

再び注目集まる、イタリア北東部の古い港湾都市

2021.05.28
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港町トリエステの歴史を映し出すのが、毎年恒例のヨットレース「バルコラーナ・レガッタ」だ。第1次世界大戦中の海上戦没者を追悼する勝利の灯台の前で、レースが繰り広げられる。(PHOTOGRAPH BY CHIARA GOIA)
この記事は雑誌ナショナル ジオグラフィック日本版2021年6月号に掲載された特集です。定期購読者の方のみすべてお読みいただけます。

イタリア北東部の古い港湾都市、トリエステ。戦後、その価値が認められない時期が続いたが、近年、貿易の拠点として再び注目されている。

 イタリア北東部の都市トリエステでは、冬は名物の風「ボーラ」が吹きすさぶ。だが、気品ある建物が並ぶその静かな街並みは、散策するにはもってこいだ。

 トリエステは中央ヨーロッパとバルカン半島に挟まれた国境の都市で、オーストリア゠ハンガリー帝国時代には港町として繁栄を享受し、行き交う商人や労働者がさまざまな文化をもたらした。今は人口およそ20万人の国内16番目の都市だが、イタリアのなかでは驚くほど多様な文化が入り交じる。

 10月のある晴れた朝、労働者が多く暮らすサン・ジャコモ地区で借りた部屋から、トリエステの中心部へ向かった。この日私が歩いた道にも、紀元1世紀のローマ時代の劇場跡があり、ドームを冠した19世紀セルビア正教会の礼拝堂があり、鉄道駅からはアフリカ系の物売りが続々と出てきた。かすかに塩気を含んだ空気に、焙煎したコーヒー豆の芳香が混じる。

セルビア正教会の聖スピリドン教会の150周年を祝う式典で、セルビアの民族衣装を着て礼拝に出席する少女たち。トリエステには、さまざまな民族集団の人々が暮らす。(PHOTOGRAPH BY CHIARA GOIA)

 トリエステは1996年に初めて来て以来、十数回は訪れているが、せいぜい1〜2泊だった。レストラン「グラン・マラバル」で辛辣なバーテンダーを相手にスロベニア産ワインを何杯か飲み、「レ・バレッティーネ」でマテガイとトリュフに舌鼓を打つ。海から立ち上がるカルソ台地で、ハグマノキの燃えるような赤い花を見ながらハイキング。トリエステはいつ訪ねても、最後に来た印象のままだった。

 そんな見方が変わったのは、2019年春のことだ。イタリア政府はこの年、トリエステを拠点として、ぐらつく経済の牽引役を中国に委ねることを考え始めた。そこで私は、この街に1カ月滞在することにした。そうすれば、イタリアの北東端に位置するこの都市を、初めてきちんと理解できるかもしれないと考えたからだ。

イタリアの片隅で
トリエステは第1次世界大戦までオーストリア゠ハンガリー帝国の最も重要な港であり、国際都市として繁栄していた。しかし終戦とともにイタリアに併合され、中央から遠く離れた末端の都市になった。港も長く見過ごされてきたが、最近は世界貿易の覇権を争う大国が注目している。
(ROSEMARY WARDLEY, NGM STAFF. ROB WOOD, WRH ILLUSTRATION 出典:EU-DEM; OPENSTREETMAP; MAX PLANCK INSTITUTE FOR DEMOGRAPHIC RESEARCH)

次ページ:今は平穏だが、歴史の脈動は激しかった

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