「呼吸」するヒマラヤ山脈、隆起と沈下のつながりをひもとく

息を吸うように隆起し咳をするように沈下、地震リスクの理解も深める研究

2021.05.15
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雲の切れ間から顔を出す、氷に覆われたヒマラヤ山脈の頂上。(PHOTOGRAPH BY JASON EDWARDS, NAT GEO IMAGE COLLECTION)
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 地球の時計を早送りできたら、地表が盛んにうごめく様子が見えるだろう。大陸が地球上を駆けめぐり、海が広がったり狭まったりし、新しい山々が空に向かって盛り上がっていくのがわかるはずだ。

 山は隆起するだけではない。プレートどうしの衝突による圧力が限界に達して地震が発生するたびに、沈下もする。米カリフォルニア工科大学の地球物理学者ルカ・ダル・ジリオ氏は、この周期的な現象を、不規則な呼吸で上下する巨大怪獣の胸に例える。

 この周期的な現象を作り出す力は非常に複雑で、それが最もよく表れている場所が、2400kmにわたって険しい山々が連なるヒマラヤ山脈だ。ダル・ジリオ氏らは、3月2日付けで学術誌「Nature Reviews」に発表した総説論文で、ヒマラヤの地質に関する200以上の過去の研究成果をまとめ、百万年から秒単位まで時間的スケールが異なるその複雑なメカニズムの一端と、残された多くの研究課題を明らかにした。

 今回の論文では、それぞれの現象が将来の地震の発生に及ぼす影響を検証している。ヒマラヤ山脈の「呼吸」のメカニズムを解明することは、周辺に住む数億人の命にかかわる地震のリスクを理解する上でも非常に重要だ。また、同様の地質学的「呼吸」は世界中で記録されている。そのため今回の研究は、地球上にある多くの山脈の形成プロセスを理解し、そうした山脈が引き起こすおそれのあるリスクを把握するカギとなる。(参考記事:「南アジアで巨大地震の可能性、最大でM9.0」

 論文の共著者で、シンガポールの南洋理工大学の構造地質学者ジュディス・ハバード氏は、ヒマラヤ山脈の巨大さと地質学的な複雑さは、自然の実験室として最適だと話す。「地球が私たちのために実験をしてくれているようなものです」

巨大山脈の呼吸

 地球の表面を覆うプレートは常に動いており、プレートどうしが互いに遠ざかったり衝突したりすることで、地形が変わる。ヒマラヤ山脈は、そうした地殻変動がつくり出した劇的な一例だ。その第一幕は、今から約5000万年前にインドプレートがユーラシアプレートに衝突したときに始まった。

 どちらのプレートも厚くて浮力の大きい大陸プレートであったため、両者が圧縮されてインドプレートがユーラシアプレートの下に潜り込むと、地形にしわが寄って地殻が厚くなり、雄大な峰々が立ち上がった。(参考記事:「かつて海の底だったエベレスト、実は今も成長中」

 現在もインドは毎年約5cmずつ北上している。しかし、ユーラシア大陸の下をスムーズに進むことはできないため、インドが北上するにつれて、ユーラシアプレート側はこぶ状に膨らんでいく。このとき山々は、長く息を吸い込む胸のように、徐々に高くなっていく。やがて圧力が限界に達すると、陸塊は震えて短く息を吐く、あるいは「咳」をする。これが地震だ。

次ページ:2015年の大地震のデータを活用

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