大気汚染を招きやすい食品は
動物性食品の健康への影響を測るために、研究チームは、その生産に何が必要かを調べた。動物を飼育するには、飼料となる作物を育てる必要がある。作物を育てるためには、肥料を与え、土地を耕作し、ディーゼルエンジンのトラクターを使用する。家畜の排泄物も適切に処理しなければならない。
「農業のなかで、畜産業が果たす役割はきわめて大きいです。家畜だけでなく、その家畜に与えるエサも、かなりの部分を占めています」と、ヒル氏は言う。
たとえば論文によると、食用、燃料、動物の飼料にもなるトウモロコシを育てるだけでも、大気が汚染され、年間3700人の早すぎる死につながっているという。肉用牛を育て、飼料となる作物を育てれば、その大気汚染による早期死者数は年間4000人。これに肉用豚と乳牛を加えると、死者数は年間9100人になる。
一方、食用トウモロコシを含む野菜の栽培による早期死亡は、年間100人だった。
持続可能で健康的な食事で死者が減る
論文はさらに、農業による大気汚染を減らすために農家や消費者にもできる様々な対策を提案している。農家の場合、家畜の排泄物処理法の改善や効率的な肥料の使い方など、ここで提案されていることをすべて実行すれば、年間7900人の命を救えると推定されている。つまり、食料生産の影響を半減できる。
個人にもできることはある。牛肉や豚肉ではなく、鶏肉を多く消費するようになれば、年間6300人の命が救われる。さらに、英医学誌「The Lancet」などによる「EATランセット委員会」が提唱するように、ベジタリアン、ビーガン(絶対菜食主義)、またはフレキシタリアン(肉食を減らすが完全に断つわけではない)などの持続可能で健康的な食事に移行すれば、計1万700人~1万3100人の早期死亡を防げるという。(参考記事:「肉を半分に減らさないと地球に「破滅的被害」」)
有害な微粒子PM2.5を追跡
どの食品や食習慣が大気汚染を助長しているかを知るため、この研究では環境保護局による「全米大気汚染物質排出リスト(NEI)」のデータを採用した。
「大気汚染を引き起こしているすべての排出源を網羅した大変詳細なリストです。なかでも、PM2.5は最も大きな影響を与える汚染物質です」と、ヒル氏は言う。
研究チームは、大気汚染による米国の死者数が年間10万人と推定する研究に基づいて、PM2.5の影響をモデル化した。ただし、この数字は資料によって6万~20万人とばらつきがある。
直径2.5マイクロメートルのPM2.5は、毛髪の太さの30分の1以下という微小粒子状物質で、森林火災、自動車の排出ガス、工場排出など、あらゆる場所で発生する。人間が吸い込めば、肺に入り込んで呼吸器疾患や心臓疾患の原因となる。(参考記事:「寿命を縮める大気汚染」)