動物性食品の生産による大気汚染で年1万人超が死亡、米国

農業で排出されるPM2.5を詳しく分析した初の研究、改善策も提示

2021.05.15
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米国カリフォルニア州サーマルで、農地を耕作するトラクター。耕作から発生する粉塵のせいもあって、この地域の大気の質は、連邦政府と州政府の基準を満たしていない。サーマルの町があるリバーサイド郡は、喘息による子どもの入院率がカリフォルニア州で最も高い。(PHOTOGRAPH BY DAVID BACON, REPORT DIGITAL-REA/REDUX)
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 人々の健康を害し、主要な死亡原因にもなっている大気汚染は、自動車の排出ガスや工場、発電所の煙突から出る汚染物質と関連付けられることが多い。ところが、米国では農業の食料生産で排出されるPM2.5による大気汚染で、年間約1万6000人が早すぎる死を迎えているという研究結果が5月10日付けの学術誌「米国科学アカデミー紀要(PNAS)」に発表された。しかも、そのうちの80%は、食肉、乳製品、卵など動物性食品の生産に関連するという。

 カーボンフットプリントや土地・水利用など、特定の食品が環境に与える影響については10年以上前から研究されてきた。だが今回の論文は、どの食品が最も大気汚染を引き起こしているかを分析し、喘息、心臓発作、脳卒中の原因となる大気汚染に最も影響を与えている食品や食習慣を特定した初の研究結果だ。

 食料以外にも、エタノール、皮革、羊毛などの生産も死者数を引き上げている。これらすべてを合わせると、農業全体により生じるPM2.5(直径2.5マイクロメートル以下の粒子状物質)による大気汚染は、年間1万7900人の早すぎる死の原因になっていると論文は結論付けた。

「私たちは、体内に取り込む食品がいかに自分の健康に影響を与えるかということばかり考えてしまいがちですが、私たちが食べるものは他の人の健康にも影響を与えているのです」。論文の筆頭著者であるニナ・ドミンゴ氏はこのように述べた。

 論文の最終著者で、米ミネソタ大学のバイオシステムエンジニアであるジェイソン・ヒル氏は、「気候変動の長期的影響はあまりに規模が大きすぎて心がくじかれそうですが、この大気汚染は、今現在も人の命を奪っているのです。大気を汚染する物質は毎年排出され、人々に影響を与え、生活の質を低下させています」と話す。

 一方、業界団体からは、批判的な声が上がっている。全米肉牛生産者・牛肉協会(NCBA)は、「論文は不完全な仮説に基づいており、データは穴だらけ」「誤解を招き」「畜産に対する誤った見方を広めてしまう」などと批判した。米農業連合会(AFBF)も同様に「原因と結果の定義を拡大解釈しすぎている」と主張する。

 これに対してヒル氏は、米環境保護局と農務省による査読済みの公式データを基にしていると反論した。

「すべてのモデルは専門家による査読を受けており、私たちのグループだけでなく、他にも多くの研究者に広く使用されています」

次ページ:大気汚染を招きやすい食品は?

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