南アフリカ、ライオン飼育繁殖産業を廃止へ 法制化がカギ

繁殖、飼育、狩猟、触れ合いをウリにする商用サービスに許可を出さないことを決めた

2021.05.08
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2019年、南アフリカ北西州のピエニカ・ファームに暮らす複数のライオンが疥癬(かいせん)を発症し、栄養失調とネグレクトで苦しんでいることが判明した。飼育者はジャン・スタインマン氏で、当時、南アフリカ捕食者協会の理事に名を連ねていた。動物愛護団体によれば、これは決して特別な事例ではなく、南アフリカに250以上ある飼育繁殖施設の多くでライオンたちが苦しんでいるという。(PHOTOGRAPH BY NICHOLE SOBECKI)
2019年、南アフリカ北西州のピエニカ・ファームに暮らす複数のライオンが疥癬(かいせん)を発症し、栄養失調とネグレクトで苦しんでいることが判明した。飼育者はジャン・スタインマン氏で、当時、南アフリカ捕食者協会の理事に名を連ねていた。動物愛護団体によれば、これは決して特別な事例ではなく、南アフリカに250以上ある飼育繁殖施設の多くでライオンたちが苦しんでいるという。(PHOTOGRAPH BY NICHOLE SOBECKI)
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 南アフリカが、観光、トロフィーハンティング(趣味の狩猟)、伝統医学用の骨の供給などを目的とする、ライオンの繁殖や飼育の廃止に動いた。こうしたライオン繁殖産業は数百万ドル規模になると推定されている。

 同国の環境林業漁業相のバーバラ・クリーシー氏は2021年5月2日、声明を発表し、「ライオン繁殖産業は自然保護に貢献しておらず、南アフリカの自然保護と観光の評判を傷つけているという見解」を認めた。

 今回の発表で、南アフリカ政府は、ライオンの繁殖、飼育、狩猟、触れ合いなどの商用サービスに新たな許可を出すことを停止し、すでに出ている許可も取り消していくことになる。この決定には、非倫理的な産業であるという反発の高まり、ライオンの骨の合法取引と違法取引の関連性、動物から人に感染する病気への理解の深まりなど、さまざまな要因が影響していると考えられる。

 現在、南アの民間施設で飼育されているライオンは6000〜8000頭と推定されているが、ライオン繁殖産業の廃止を目指すNPOブラッド・ライオンズのディレクター、イアン・ミヒラー氏によれば、実際は1万2000頭に達している可能性もあるという。

 同国内には野生のライオンが2000頭ほど生息しており、アフリカ大陸全体では約2万頭と推定されている。生息地が分断され、アンテロープなどの獲物が少なくなった影響で、野生の生息数はこの四半世紀でほぼ半減した。一方、ライオンが農村部の人々と接触する機会は増え、ライオンにも人間にも好ましくない状況を招いている。飼育下に置かれたライオンの体の一部が合法的に取引されていることで、野生のライオンの密猟が増加している可能性もあるとクリーシー氏は指摘する。

 南アフリカのライオン繁殖産業に関する報告では、ライオンが過密空間に押し込められ、栄養や医療が行き届かない非倫理的な環境で飼育されていることが示唆されている。(参考記事:「ライオン100頭以上ネグレクト 南アフリカ施設」

 5月2日の南ア政府の発表は、自然保護団体だけでなく動物愛護団体にとっての勝利ととらえられている。NPOワールド・アニマル・プロテクションの野生動物キャンペーンマネジャーを務めるエディス・カベシイメ氏はメール取材に対し、「南アフリカでは毎年、残酷な民間繁殖施設で何千頭ものライオンが生まれ、惨めな暮らしを送っています」と述べている。「南アフリカ政府は勇気ある行動を取りました。長期的に意味のある変化への第一歩を踏み出したのです」

 南アフリカの飼育繁殖施設には、観光客相手に、ライオンの子をなでたり、哺乳瓶でミルクを飲ませたり、一緒に写真を撮ったり、成長したライオンと並んで歩けるものもある。こうした触れ合い型の観光も、虐待や非倫理的な繁殖につながると批判されている。特に指摘されているのが、ライオンの子を数多く産ませるため、子を母から早く引き離すスピード繁殖がある。

参考ギャラリー:南アフリカ、ライオン牧場が抱える深い闇 写真15点(画像クリックでギャラリーページへ)
参考ギャラリー:南アフリカ、ライオン牧場が抱える深い闇 写真15点(画像クリックでギャラリーページへ)
北西州ルステンブルクにあるアクワアバ捕食動物公園では、観光客が子ライオンと触れ合ったり、一緒に写真を撮ったりできる。一部の施設は、成長したライオンを繁殖施設や狩猟場へ売り、それらのライオンが死んだ後、骨はアジアへ合法的に輸出される(違法の場合もある)。(PHOTOGRAPH BY NICHOLE SOBECKI, NATIONAL GEOGRAPHIC)

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