深海に眠る謎に挑み続ける探求者

タイタニックを見つけたロバート・バラードの半生を振り返る

2021.04.28
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1979年のガラパゴス海嶺への潜航後、潜水艇アルビンから姿を現すロバート・バラード。彼が深海を視覚的に観察することにこだわったおかげで、科学的にも歴史的にも重要な発見がもたらされた。(PHOTOGRAPH BY SAMUEL W. MATTHEWS)
この記事は、雑誌ナショナル ジオグラフィック日本版2021年5月号に掲載された特集です。定期購読者の方のみすべてお読みいただけます。

ロバート・バラードは「タイタニックを見つけた男」として知られているかもしれない。だが、彼が生涯を懸けて追い求めてきたのは科学的・文化的に重要な“宝”を見つけることだった。

「機体がもしあそこにあったなら、あいつから見えていたはずです」。ロバート・バラードはそう言った。

「あいつ」とは、全長64メートルの調査船、ノーチラス号から送り出された全長4メートルの小型無人ボート(ASV)のことだ。

 彼はノーチラスの船室に座り、モニターに映る海底の図像を指し示す。マルチビームのソナーを備えた遠隔操作式のASVは、太平洋のただ中にあるニクマロロ島を取り巻くサンゴ礁の周囲を進み、海中の画像を生成していた。バラードはそこで、伝説の女性飛行家アメリア・イアハートが乗っていたロッキード・エレクトラ10Eを捜していたのだった。

 40年以上前に海底の熱水噴出孔を、30年前に豪華客船タイタニックを、そして20年近く前にジョン・F・ケネディが第2次世界大戦で搭乗した魚雷艇を発見したバラードは、78歳になる今もナショナル ジオグラフィック協会のエクスプローラー・アット・ラージとして、海洋の大いなる謎を解く仕事に取り組んでいる。

 イアハートが人類初の赤道ルートの世界一周を目指す途中で消息を絶ったのは、もう80年以上前のことだ。バラードは2019年のこの遠征に旅立つ前に、彼女の飛行機がそこにあるなら、きっと見つけてみせると宣言していた。

 バラードはいつものように徹底した捜索を行った。焦点を絞ったのは、長さ7.5キロの島の北西端だ。1937年にそこで撮られた写真には、エレクトラの着陸装置のように見えるものがサンゴ礁から突き出しているのが写っていた。空中のドローンはサンゴ礁で砕ける波にカメラを向け、洋上のASVは水深230メートルまでの水中を調査した。また無人潜水機(ROV)のハーキュリーズとアーガスは、水深1500メートル近くの海底に至るまで、岩だらけの斜面をつぶさに調べた。マルチビーム・ソナーを備えたノーチラスは島を5周し、ASVも3周、ドローンも1周した。バラードとスタッフは、そのすべてを船のモニターで固唾をのんで見ていた。

 結局、飛行機は見つからなかった。

「全力を尽くしたのですけど」とバラードは言い、1985年のタイタニック発見は3度目の挑戦だったこと、ナチスドイツの戦艦ビスマルクを見つけるまでに2度の遠征を要したことを付け加えた。「時にはあっさり見つかるんですが……」

 そしてバラードは気持ちを切り替えて言った。「たくさんのことがわかりました。捜索の候補地がいくつか消去できたし、楽しかったですよ」

次ページ:きっかけは映画『海底二万哩』

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