「クジラ語」は解読できるか? 大型研究プロジェクトが始動

「野生動物の研究に革命を起こす可能性がある」と専門家

2021.05.02
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機械学習のブレークスルー

 最近では、動物たちのコミュニケーションを解明するために、人工知能が活用されるケースが増えている。2016年には研究者たちが、エジプトルーセットオオコウモリが食べ物をめぐって争っているときと、休憩場所をめぐって争っているときの声の違いを、機械学習を通して識別してみせた。

 ネズミたちは、人間の可聴域をはるかに超える音でコミュニケーションをとっている。科学者らは2019年、ネズミの鳴き声をソノグラムに変換し、人間の脳回路を大まかに真似た人工的なニューラルネットワークに通すことによって、様々な音と行動をリンクさせた。

 こうした新たな理解が可能になったのは、過去10年の間にアルゴリズムが洗練され、コンピューターの処理能力が爆発的に向上したことで、機械学習のブレークスルーが起きたためだ。

 しかし、クジラ語の解読に向けた課題は山積みだ。人間の言語を機械翻訳できる理由の一つは、言葉の関連性がどの言語でも似通っているためだ。たとえば英語の「moon(月)」と「sky(空)」との関連性は、フランス語の「lune(月)」と「ciel(空)」の関連性と変わらない。

「クジラの場合、そうしたものが存在するのかどうかが大きな問題です」と語るのは、MITの自然言語処理の専門家で、CETIプロジェクトのメンバーでもあるジェイコブ・アンドレアス氏だ。「彼らのコミュニケーションシステムの中には果たして、言語のように機能する最小単位はあるのでしょうか。また、それらを組み合わせるための規則は存在するのでしょうか」

 これを解明するために、たとえば、言語のルールをランダムに作成するアプローチがある。そのルールが会話の「単位」に合致しているかどうかのチェックを行い、もし合致していなければ微調整をして再試行する。コンピューターは「ルールを調整・検証するというこのプロセスを非常に速く行い、何千回、何百万回と繰り返して、データをうまく解明することができるルールのセットを作ります」とアンドレアス氏は言う。

参考ギャラリー:クジラには集団ごとに「文化」がある、3年間24カ所で撮影 写真10点(画像クリックでギャラリーへ)
「クジラの傑作写真が撮れる条件が揃うことはめったにありません」と語るのは、20年以上にわたりナショナル ジオグラフィックで活躍する写真家ブライアン・スケリー氏。それでもスケリー氏は、3年間、24カ所を巡ってザトウクジラ、ベルーガ(シロイルカ)、シャチ、マッコウクジラを撮影した。(Photograph by Steve De Neef)

 当然ながら、解読への鍵は研究者が十分なデータを集められるかどうかにかかっている。機械学習は膨大な量の情報を必要とするが、ゲロー氏が持っている記録はわずか数千件に過ぎない。クジラの発話にパターンを見出すためには、おそらくは数千万かそれ以上の数のコーダが必要となるだろう。

 また、科学者たちはコミュニケーションと行動を正しく組み合わせる必要があると考えている。狩りに行く前に現れる特定のコーダや、交尾をすると決めるときに作られる音の配列はあるだろうか。

「これはパーティーのようなものです」とグルーバー氏は言う。パーティー会場のあちらこちらにマイクを数本設置すれば、会話の断片を拾うことはできる。しかし、人々の行動を観察することによってはじめて(だれがだれの腕を触ったか、だれがよりよい相手を探して部屋を見回しているかなど)、「その場の全体像が見えてくるのです」

次ページ:動物のコミュニケーション研究に革命

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