ダムスとは米カリフォルニア大学サンタバーバラ校の生態学者ジョン・ダムス氏のことで、生きた哺乳類の30年分の生態学的データから、このパターンを発見した人物だ。しかし、ダムスの法則は決して鉄壁ではない。動物によってライフスタイルや生息地が大きく異なるためだ。例えば、ブチハイエナとジャガーは同じような体重で、どちらも捕食者だが、密集度はハイエナの方が50倍ほど高い。

 ダムスの法則をティラノサウルスに当てはめると(ティラノサウルスは哺乳類ではないという事実を考慮したうえで)、ティラノサウルスの総数は1億4000万〜420億頭の範囲に収まるという結果が出た。

 今回の研究を率いた米カリフォルニア大学バークレー校の古生物学者チャールズ・マーシャル氏は「古生物学では、何かを見積もるのはとても難しいことです。そのため、見積もることより、範囲をとらえようと考えました。確実な上限と下限を設定しようと」と説明する。

化石になる恐竜はきわめてレア

 マーシャル氏らはこの太古の暴君がどれくらいいたかをより深く理解できただけでなく、化石になる確率についても見積もることができた。

 ティラノサウルスの標本は知られているだけで100点ほどあるが、約5分の2が個人や営利団体の所有物で、確実な研究ができる状態ではない。そこで、マーシャル氏らは公的機関に所蔵されているティラノサウルスの成体の化石32点を化石の総数の下限として設定した。

 もしティラノサウルスの総数の中央値である25億頭がこれまでに命を落とし、32の化石しか得られなかったとしたら、ティラノサウルスが死後に化石化した確率はわずか8000万分の1程度ということになる。

 たとえ化石化の割合がもっと高く、残りはまだ発見されていないだけだとしても、その確率の低さを見れば、死骸が短時間で埋もれた状態になり、しかも、鉱物に置換されて化石になる化学的条件がそろうことがいかに珍しいかがよくわかる。「もしティラノサウルスの総数が25億頭ではなく250万頭だったら、私たちはその存在すら知らなかったかもしれません」とマーシャル氏は話す。

 マーシャル氏らが提示した手法は、ほかの絶滅した生き物にも応用できる。研究者たちは恐竜の有力候補として、白亜紀の草食恐竜マイアサウラを挙げている。生まれたばかりの赤ん坊から成体まで、知られているだけで数百の標本が存在するためだ。

 ウッドワード氏は今回の研究によって示されたことのなかでも特に、恐竜の化石が希少なものである可能性に興奮している。もし化石化の割合がティラノサウルス以外の種にも当てはまるとしたら、化石になることすらなく、永遠に失われてしまった恐竜種の数を推測できるかもしれない。「どれくらい失われたかを知ることは、どれくらい存在するかを知ることと同じくらい重要です」

参考ギャラリー:決定版!奇跡の恐竜化石たち 写真23点(画像クリックでギャラリーへ)
参考ギャラリー:決定版!奇跡の恐竜化石たち 写真23点(画像クリックでギャラリーへ)
恐竜研究の歴史を飾る、謎と美しさに満ちた化石や復元模型の写真を選りすぐって紹介する。写真はドイツ、ベルリンにあるフンボルト博物館所蔵のティラノサウルス・レックスの頭骨。(PHOTOGRAPHY BY GERD LUDWIG)

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