ハリガネムシの幼生はコオロギの体内に侵入し、そこで成長する。交尾には水が必要になるため、ハリガネムシはコオロギの脳を操って川に飛び込ませる。こうしてコオロギはそこにすむ魚にとっての重要な食料となる。(PHOTOGRAPH BY ANAND VARMA, NAT GEO IMAGE COLLECTION)
ハリガネムシの幼生はコオロギの体内に侵入し、そこで成長する。交尾には水が必要になるため、ハリガネムシはコオロギの脳を操って川に飛び込ませる。こうしてコオロギはそこにすむ魚にとっての重要な食料となる。(PHOTOGRAPH BY ANAND VARMA, NAT GEO IMAGE COLLECTION)

 子どものころから海洋生物学者になることを夢見ていたチェルシー・ウッド氏は、サメやイルカの研究にいそしんでいた。ところが大学のインターンの最中、なぜか巻き貝の内臓を顕微鏡でのぞくことになった。

 巻き貝はなじみのある生物だった。幼いころには、海辺の岩にへばりついているものを引きはがしてバケツに入れ、はい回るのを眺めたものだ。ただし、その中身を見たことは一度もなかった。殻を割って柔らかい部分を取り出し、顕微鏡で拡大すると、「大量の小さなソーセージ状のものが中からわらわらと出てきました」と、ウッド氏は言う。

 このソーセージは魚類によくみられる寄生虫の一種で、扁形動物である吸虫の幼生だった。顕微鏡を通してみると、一つ一つの幼生には2つの眼点があり、そのせいでひどくかわいらしく見えた。「わたしはすっかり彼らに心を奪われてしまいました」。今では米ワシントン大学の寄生虫生態学者となったウッド氏はそう語る。

 氏はそれ以来、寄生虫を救うための新たな保護活動を先頭に立って推進している。

 地球上に生息する既知の動物の半分近くは寄生虫だと、ウッド氏は言う。そして、学術誌「Science Advances」に2017年に発表されたある研究によると、寄生虫の1割は今後50年以内に、気候変動、宿主の喪失、意図的な駆除といった原因によって絶滅する可能性があるという。(参考記事:「なんと生き物の半分近くは寄生虫!?」

 しかし今のところ、この事実はほとんど問題視されていない。国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストにおいて「近絶滅種(critically endangered)」とされる3万7000種以上の種のうち、寄生虫はシラミ1種と一部の淡水性のイガイだけだ。

 寄生虫とは何も昆虫に限らず、宿主の体の内外にすみつき、その宿主から何かを奪う生物全般をさす。そのせいで、彼らはこれまで厄介者扱いされてきた。しかし、すべての寄生虫が宿主に顕著な害を及ぼすわけではなく、人間に影響を与えるものはごくわずかしかいない。

 科学者らは、人間と直接関わりのない寄生虫の存在を軽視すると、悲惨ななりゆきが待っていると警告している。寄生虫には、人間のためになる多くの利用法があるだけでなく(たとえば、手術で利用される医療用ヒルなど)、ある生物の数を抑制しながらほかの生物に食料を提供するなど、生態系において重要な役割があることがわかってきている。

「一般の人たちは寄生虫のことなど気にかけていないでしょう。しかし、現代の保全生物学は、彼らを生物多様性の重要な一部と考えています」と、米カリフォルニア大学サンタバーバラ校の生態学者ケビン・ラファティ氏は言う。

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