ルワンダの火山国立公園で胸を叩くオスのマウンテンゴリラ。(NATURE PICTURE LIBRARY / ALAMY STOCK PHOTO)
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 1933年にキングコングが銀幕に登場すると、「胸叩き(ドラミング)」というゴリラの行動を世界中の人々が知ることになった。

 しかし、ゴリラのオスがなぜ自身の胸を叩くのかについては、科学者による推測はあるものの、確かな証拠はこれまでほとんど見つかっていなかった。

「非常に印象的な行動です。ちょっと怖いこともあります。彼らの邪魔になりたくないと思うでしょう」と、ドイツのマックス・プランク進化人類学研究所の霊長類学者、エドワード・ライト氏は言う。

 ライト氏の新しい研究によると、マウンテンゴリラ(Gorilla beringei beringei)のオスの胸叩きは、体重200キロにもなるゴリラ同士の争いを防いでいる可能性があるという。数年がかりでゴリラの胸叩きを研究した成果が、学術誌『Scientific Reports』に4月8日付けで掲載された。

 マウンテンゴリラは、シルバーバックと呼ばれるおとなのオスを中心とした、緊密な血縁グループで暮らしている。しかし、シルバーバックはいつでも他のオスから挑戦を受ける可能性がある。だから、自分の体格、繁殖できる状況にあること、戦闘能力などを、音で遠くまでアピールして、これから挑戦しようとする他のオスたちに考え直したほうがいいというシグナルを送っているのだ。

 ライト氏らは、この行動を詳細に調べるため、アフリカ、ルワンダの火山国立公園で、絶滅危惧種のマウンテンゴリラを3000時間以上にわたって観察した。(参考記事:「ルワンダのゴリラ研究所、ダイアン・フォッシーの後継者たち」

 チームはナショナル ジオグラフィック協会の支援を受け、2014年から2016年にかけて、25頭のオスにおける500回以上の胸叩きを記録した。ゴリラたちは研究者の存在に慣れてはいるものの、ヒトから病気に感染する可能性があるため、安全な距離を保って観察を行った。(参考記事:「ゴリラが新型コロナに感染、人間以外の動物で7番目」

 研究では、胸叩きの周波数、叩いた回数と持続時間を記録した。また、写真からゴリラの各個体の肩幅を測定し、音のデータと体格との関係を調べた。

 その結果、体の大きなマウンテンゴリラは、体の小さな個体よりも低い周波数の音を出していることがわかった。大きな個体は、のどの辺りの気のうが大きいためだと考えられる。つまり、胸を叩くことは単なる視覚的な表現ではなく、ワニの低い声やバイソンの唸り声とも共通する、「競争力を示す正直なシグナル」であるというのだ。

 これまでの研究から、ゴリラの体格が集団内の順位や繁殖の成功に関わっていることはわかっている。しかし、胸叩きがそうした情報の一部を伝える役割を果たしているという今回の研究成果は、これまであくまで推測の域を出ていなかった。

「そうだろうと予測してはいましたが、この主張を裏付ける実際のデータはありませんでした。今回の結果を見られて、うれしく思います」と、米ジョージア大学の霊長類行動生態研究所所長、霊長類学者のロバータ・サルミ氏は語る。氏は今回の研究には関わっていない。

次ページ:胸叩きの音で争いを避ける?

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