輸入エタンの消費量は2倍へ
海を越えてエタンを輸送し始めた欧州の石油化学大手イネオス社は、ベルギーのアントワープに巨大な新工場の建設を計画している。業界アナリストによると、この工場の建設により、ヨーロッパでの輸入エタンの消費量は2倍になるという。
このプロジェクトは、ヨーロッパ大陸では1990年代以来のエタンクラッカーの新設となる。これが環境保護団体との対立を引き起こした。
この計画が実現すれば、アントワープは世界2位の石油化学拠点としての地位を固めることになる(1位は米テキサス州ヒューストン)。また、アントワープはすでにプラスチック生産の一大拠点となっており、スヘルデ川の川岸には「ナードル」と呼ばれるレンズ豆大のペレット状のプラスチック原料が散乱している。ある推計によると、2018年には2.5トン(数十億粒)がこの地域で流出した。
ナードルは海の生物に甚大な被害をもたらす。「魚の卵のように見えるんです」と、プロジェクトに異議を唱える環境保護団体「クライアントアース(ClientEarth)」の弁護士タチアナ・ルハン氏は話す。それを食べた鳥や魚は、他に何も食べられなくなって餓死することがあるという。
イネオスの新工場自体はナードルを生産しないが、ナードルを生産する工場にエチレンを供給することになる。同社は、このプロジェクトは単に効率の悪い旧式の工場を置き換えるものであり、ヨーロッパ全体のプラスチック生産量を増やすことはないとしている。同社の広報担当者であるトム・クロッティ氏は、効率化によって新工場の二酸化炭素排出量は旧式の工場の半分になると述べている。
プラスチック需要は世界的に増加
一方、新しい工場を建設しても、古い工場が閉鎖されるとは限らないと反対派は言う。仮に閉鎖されたとしても、新工場はプラスチック生産を支えるエチレンを将来にわたって供給することになる。ヨーロッパがプラスチックの使用を減らそうとしているにもかかわらずだ。
ヨーロッパでは使い捨てプラスチックの削減に向けた大々的な取り組みが21年7月から始まる。使い捨てのカトラリー(ナイフやフォーク等)、皿、コップ、マドラーなどは禁止され、ペットボトルのキャップは外れてごみにならないようボトル本体につながなければならなくなる。ペットボトルの回収目標が今後、設定されるほか、2025年までにペットボトルのリサイクル材料使用率を25%に義務化するなど、取り組みが強化される予定だ。
ヨーロッパのプラスチックごみ対策は野心的な取り組みだと、環境団体「環境調査エージェンシー(EIA)」の弁護士ティム・グラビエル氏は話す。企業がプラスチックの生産能力を上げることは、ヨーロッパのこうした取り組みや高い炭素排出削減目標と「完全に相反する」ものだと氏は指摘する。(参考記事:「世界の漂着ごみ、食品包装用プラスチックが最多に」)
これに対しヨーロッパのプラスチック業界団体「プラスチックスヨーロッパ(PlasticsEurope)」は、プラスチックの減産ではなくリサイクルが解決策になると強調する。さらに、代替素材にもそれなりの環境コストがかかると同団体は指摘する。