ボツワナで野生動物保護に取り組むグリン・モード氏は、科学者は研究対象に愛着を持つべきではないことを知っている。しかし、モード氏とその同僚たちは、彼らが「マギギ」と名付けた6歳のライオンの幸運を願わずにはいられなかった。なぜなら、それだけ過酷な運命が待ち構えていることを知っていたからだ。
マギギというのはボツワナ語で「魔術師」を意味し、このメスがよく姿を消してしまうことから付けられた名だった。マギギがベレの村外れで家畜の牛を繰り返し襲うようになったため、当局はマギギを捕獲して、元いた場所から約130キロ離れたセントラル・カラハリ動物保護区内に移送した。
マギギは大半の時間を人里離れた保護区で過ごしていた。だが、捕獲から1年がたったころ、家畜を追って保護区の外へ飛び出し、農民に射殺される。
「マギギが長生きしてくれることを願っていました」と、ボツワナの野生動物保護団体「カラハリ・リサーチ・アンド・コンサベーション」創設者のモード氏は言う。「しかし、結局はうまくいきませんでした。悲しいですが、これはよくあることなのです」
このときにモード氏らが行った研究により、マギギがたどった不運な顛末は、移殖(野生動物を意図的かつ人為的に他の生息地に移動させること)させられたライオンにとって珍しくないことが確かめられた。その結果は2月15日付けで学術誌「African Journal of Wildlife Research」に発表された。
数十年前から、アフリカの多くの国々の野生動物管理担当者は、家畜を繰り返し襲うライオンへの人道的な対処法として移殖を行ってきた(人を襲ったライオンは安楽死させられる)。しかし、今回の研究は、移殖されたライオンの大半がその後も家畜を襲い、村人の暮らしを脅かし続けていることを示している。(参考記事:特集「ライオンと生きる」)
しかも、モード氏らが追跡観察した移殖後のライオン13頭のうち10頭が1年以内に死亡した。詳しい内訳は後で述べるが、人間に殺されたものもいれば、移動によるストレスから死んだと思われるものもいる。
「政府がこの方法を用いる主な理由は、ライオンを射殺したくないからです」とモード氏は言う。「現在の管理は、致死的なもの以外の手法をとろうという方向へ大きく動いています」
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