目立たないけれど大事な生物「菌類」、その保護は十分か?

「地球上の今ある生命体は、菌類なしでは存在できません」と専門家

2021.04.16
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

菌類の現状

 2018年に発表された世界の菌類の状態に関する評価報告書によれば、存続が脅かされているかどうかを判断するための査定を受けた菌類はわずか56種だった。動物は6万8000種、植物は2万5000種が査定を受けているのと比べると、圧倒的に少ない。現在では、世界で168種のキノコが危機にあると評価されている。

 シチリア島のホワイトフェルラの例からもわかるように、キノコの乱獲は生息数の減少につながる。キノコの多くは、食用となるだけでなく、健康にも効果があるとされている。チベットの冬虫夏草は、咳や腰痛など、あらゆる症状の治療に用いられている。万能薬として販売されているチャーガ(カバノアナタケ、別名シベリア霊芝)は乱獲が進み、一部の地域では数が激減している。

市場に出すために冬虫夏草をチェックするチベットの遊牧民。このキノコは薬効があるとして有名で高値がついているが、環境問題専門家は、乱獲の影響で生息域の山岳地の草原が劣化しかねないと警告している。 (PHOTOGRAPH BY KEVIN FRAYER, GETTY IMAGES)
市場に出すために冬虫夏草をチェックするチベットの遊牧民。このキノコは薬効があるとして有名で高値がついているが、環境問題専門家は、乱獲の影響で生息域の山岳地の草原が劣化しかねないと警告している。 (PHOTOGRAPH BY KEVIN FRAYER, GETTY IMAGES)
[画像のクリックで拡大表示]

 キノコは、植物と同様の多くの脅威にも直面している。生息地の減少や土壌汚染、特に殺菌剤を含む肥料の使用は、キノコに大きな打撃をもたらす。気候変動もキノコに影響を及ぼすことが研究で明らかになっている。子実体が地面から顔を出す時期の決め手となる気温や湿度が変動するからだ。

 現在、研究者たちは菌類が気候に及ぼす影響の解明にも取り組んでいる。

 2013年、ミュラー氏のチームが、IUCNレッドリストの下位区分として「菌類レッドリスト」を立ち上げた。このイニシアチブは、当時、IUCNレッドリストで絶滅危惧種に指定された菌類が3種のみ(地衣類2種とホワイトフェルラ)だったため、菌類の保全の重要性を強調することが目的だった。

「市民科学者コミュニティの協力も、重要な進展です」とミュラー氏は言う。「iNaturalist」や「マッシュルーム・オブザーバー」など、キノコ狩りのクラブやウェブサイトでキノコ愛好家たちが見つけたキノコを記録することで、研究者たちはより多くの現地情報を入手できるようになった。

 この10年間で、シチリア島以外に、ギリシャのある島でもホワイトフェルラが発見されており、ミュラー氏は、ホワイトフェルラの危機の度合いが「近絶滅種(critically endangered)」から「絶滅危惧種(endangered)」に引き下げられる日が近いかもしれないと考えている。

菌類が重要な理由

 マネー氏によれば、菌類は樹木にとって不可欠なパートナーというだけではなく、地球全体の気候に影響を及ぼす存在だ。

 秋のおだやかな森を歩くと、地面に落ちた葉や枝などは枯れて命を失っている。だが、その下には、こうした残骸を分解するために活発に活動している菌類の世界がある。菌類は植物が蓄える炭素を分解して土壌に閉じこめる働きをしていることが、研究で明らかになっている。世界中の土壌は炭素の巨大な貯蔵層で、大気と植物の炭素貯留量の合計よりも多くの炭素を貯蔵しているのだ。

 炭素循環における菌類の具体的な役割や、どの菌類が重要なのか、どれだけ多くの菌類が必要なのかという点については、まだ研究を進めているところだとプリングル氏は話す。

会員向け記事を春の登録キャンペーンで開放中です。
会員登録(無料で、最新記事などメールでお届けします。

会員登録(無料)のメリット

  • 1ナショジオ日本版Webの
    無料会員向け記事が読める
  • 2美しい写真と記事を
    メールマガジンでお届け

文=SARAH GIBBENS/訳=稲永浩子

おすすめ関連書籍

PHOTO ARK 消えゆく動物

絶滅から動物を守る撮影プロジェクト

今まさに、地球から消えた動物がいるかもしれない。「フォト・アーク」シリーズ第3弾写真集。 〔日本版25周年記念出版〕 〔全国学校図書館協議会選定図書〕

定価:3,960円(税込)

  • このエントリーをはてなブックマークに追加