では、私たちが目にすることがなく、人間に理解されていない微生物を、どのように保全すればいいのだろうか。なぜ、保全する必要があるのだろうか。(参考記事:「変形菌 美しくも不思議な生き物」)
キノコ保全分野の専門家で米シカゴ植物園の主任研究員であるグレッグ・ミュラー氏は、「地球上の今ある生命体は、菌類なしでは存在できません」と言う。
マネー氏も「菌類の保全は、緊急に取り組むべき課題です。菌類は森や樹木と深い関わりがあり、菌類がいなければ樹木は育ちません。ですから、私たちは菌類がなければ生存できないのです。地球の健全さという観点から、菌類は非常に重要です」と話している。
菌類とキノコと菌糸体
私たちにおなじみのキノコといえば、丸いボタンのような形をしていたり、平たい傘をかぶっていたりするキノコが地面から顔を出しているイメージだろう。だが、それは菌類の生殖作用の一部にすぎない。地上に出ている部分は子実体(しじつたい)と呼ばれているが、その地下部分は、菌糸体という細く微細な菌糸のネットワークにつながっている。1998年には、米国オレゴン州ブルーマウンテンの地下に8平方キロメートルに及ぶ菌糸体の広がりが発見され、それまでに調査された範囲では地球で最大の生命体とされた。
菌根菌と呼ばれる菌類は、植物と共生関係にある。私たちが地上で目にする一般的な植物の9割は、菌類と相互に助け合う関係を築いているのだ。
「菌糸が植物の根に進入して、真菌コロニーと根との間に胎盤のような関係が生まれます」とマネー氏は説明する。「植物にとっては、もうひとつの根系のようなものです」
植物は、こうした菌糸ネットワークのおかげで水分やミネラル、栄養分をより多く吸収することができ、一方で菌類は、植物が光合成で生み出す糖の一部を得ることができる。
「地面からひと握りの土を手に取ると、目に見えない菌糸体が手のひらに載っていることになります」とプリングル氏は話す。DNA解析技術の進化によって、今では、土や花の蜜など、あらゆるものに存在する目に見えない菌類のDNA配列が分かるようになっている。
だが、菌類を数えることは困難だ。種によって異なるが、菌糸体から伸びる子実体の数は多様なので、地上で確認できる子実体の数は地下の個体数とは一致しないからだ。
「それを解決する方法はありますが」とプリングル氏は言う。「時間も費用もかかる取り組みです」
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