海洋保護区の設置は、自然も漁業もどちらも救う最善策 研究

海に回復の余裕を与えることで魚の個体数と生息地が回復、気候変動も抑制可能に

2021.03.23
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カメラに寄ってきたベラの仲間。「原始の海プロジェクト」の調査中にチリのデスベントゥラダス諸島沖で撮影。(PHOTOGRAPH BY ENRIC SALA, NATIONAL GEOGRAPHIC PRISTINE SEAS)
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 2030年までに世界の海の30%を保護するというキャンペーンは70カ国以上の支持を得ている。ただ現状の達成度は、高い志に反して低い。現時点で保護されている海はわずか7%、そして厳重に保護されている海となるとわずか2.7%だ。 (参考記事:「日本を含む14カ国が「持続可能な海の管理」合意、その大きな意味」

 ペルーの水産学者パトリシア・マジュラフ氏は「『30年までに30%』を達成可能と考えるのは、あまりに楽観的すぎます」と話す。マジュラフ氏は漁業関係者の強い抵抗に直面しながら、ペルー沖に深海保護区をつくろうと取り組んできた人物だ。ペルーが保護しているのは沿岸域の0.5%にも満たない。ペルー沿岸から延びる海底山脈を保護する「ナスカ海嶺(かいれい)海洋保護区」が提案されており、2021年の春に最終決定される予定となっている。保護区が新設されれば、ペルーの保護水域は8%まで拡大する。 (参考記事:「パラオの海洋保護区、その効果が実証される」

 南米諸国をはじめとする発展途上国には、領海の3分の1近くを保護する余裕などないというのが漁業関係者の言い分だ。海洋保護区の大幅な拡大に反対するこうした声は世界中で聞かれ、漁業資源の減少と世界人口の増加に伴う魚介類の需要増加とともに、自然保護団体と漁業関係者の溝は大きくなっている。

 そうした物語を劇的に変える論文が2021年3月18日付で学術誌「Nature」に発表された。この論文によれば、海洋の30%を保護することで、海洋生態系の生物多様性を取り戻すことができるだけでなく、世界の年間漁獲量を800万トン増やすことができるという。800万トンは現在の漁獲量の約10%にも相当するものだ。しかも、底引き網を使うトロール船によって海に放出される海底からの炭素が減ることで、気候変動に対する「安価で自然な解決策」を提供できるという。

海洋保全の優先順位、どう考える?
現在、約7%の海が何らかの形で保護されているが、採掘や破壊活動から厳重に保護されているのはわずか2.7%だ。新たな海洋保護区を戦略的に設置すれば、世界の生物多様性の保全、漁獲量の増加、炭素貯蔵の保護につながる。生物多様性、食糧生産、炭素貯蔵に等しく利益をもたらす最適な保全戦略は海洋の45%を保護することだ。
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 論文の筆頭著者である海洋生態学者のエンリック・サラ氏は「海からより多くの食料を得るには保護を強化するしかありません」と話す。サラ氏はナショナル ジオグラフィック協会のエクスプローラー・イン・レジデンス(協会付き研究者)で、ナショナル ジオグラフィック協会は今回の研究を支援している。「漁獲量は1990年代半ばから減少しており、保護の強化は恒久的な利益をもたらします」

次ページ:どうやって保護を強化する?

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