第一に、セイリッシュ海は複雑に入り組んだ大きな内海であるということ。マクリーディ氏のモデルが示すように、ここで海に落ちたものは陸と陸の間に閉じ込められ、この中のどこかの浜に漂着する。第二に、ここでは主に西から東へ風が吹き、海からの浮遊物を岸に引き寄せることはあっても、岸から海側へ押し流すことはあまりない。

 そして最後に、モデルには示されていないが、マクリーディ氏が指摘したことがある。米大陸北西部の海岸では、滑りやすい岩場を歩くため、スニーカーを履く人が多い。これらすべてに加え、深く冷たい海水と豊富な海の掃除屋の存在という要素を合わせると、セイリッシュ海は人の足を引きつける条件が見事に揃った環境になる。

DNAで判明、足の持ち主たち

 ところで、足の持ち主たちは誰なのか。捜査官が最初に調べたのは、行方不明者のリストだった。検視官室はこれまでに、ブリティッシュコロンビアのデータベースに載せられている500人以上の行方不明者に加え、2018年に新たに導入されたカナダ行方不明者DNAプログラムのDNAを、発見された足のDNAと比較した。

 その結果、9個が7人の行方不明者のDNAと一致した(このうち2人は両足が見つかっている。また、多くは1年以上前から行方不明になっていた)。最も古い行方不明者は1985年から消息を絶っていた男性で、登山靴を履いた足が2011年に見つかった。最新のケースでは、2016年に行方不明になった男性の足が、2019年にピュージェット湾の島で発見された。

 ブリティッシュコロンビアの検視官室によると、カナダで発見された足のなかで殺人事件に関係があると判断されたものは1件もなかった。なかには、事故または自殺であることが明確なケースもあった。たとえば、ある女性は橋の上から飛び降りていた。また、状況がはっきりしないケースもある。2019年にピュージェット湾で見つかった男性に関して、米国の警察は他殺なのか自殺なのか結論付けられなかったとしている。目撃者がいない場合、足だけで死因を探ることはほぼ不可能だ。

 この記事の執筆時点で、ブリティッシュコロンビアで見つかった5個の足が、身元不明のままになっている。

 連続殺人犯が北西部の岩場を徘徊していたわけではないとわかって、このミステリーへの興味を失う人もいるかもしれない。だが、そこがミステリードラマと実際の法医学との違いだ。

 科学者は、たとえ真実がつまらないものであっても、正しい答えを追及する。迷宮入りしていたかもしれない謎に科学が手がかりを与えてくれるというのは、よく考えてみればすごいことだ。遅まきながらも行方不明者が見つかったのは、海中での人体の挙動や掃除屋の生物たち、靴の製造技術といった奇妙な組み合わせのおかげなのだから。

 謎を解明するのに必要なのは、その手がかりを追ってみようという意思と忍耐力、勇気だけ。そして時に、それらはスニーカーを履いて現れる。

連載:『科学で解き明かす超常現象』から紹介する 科学で挑む人類の謎 全6回(画像クリックで連載目次へ)
連載:『科学で解き明かす超常現象』から紹介する 科学で挑む人類の謎 全6回(画像クリックで連載目次へ)
「雪男伝説」「人狼」「火星の顔」など伝説上のモンスターから古代文明・遺跡まで、現代でもなお謎に満ちている事象を最新の科学を駆使して検証、その真実に迫るエンターテインメント連載。(The Yeti, illustration from “Monsters and Mythic Beasts,” 1975 (color litho), D’Achille, Gino (20th century)/Private Collection/Bridgeman Images)

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文=ERIKA ENGELHAUPT/訳=ルーバー荒井ハンナ