フロリダパンサーは復活するか?

絶滅寸前から脱したが、宅地開発と道路建設が新たな脅威に

2021.03.26
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米国フロリダ州南西部のフロリダパンサー国立野生生物保護区で、雄のパンサーが小川を跳び越える。種全体で200頭ほどしかいないが、生息地を回復しつつある。ただ、住宅地の拡大で生息環境が脅かされてもいる。(PHOTOGRAPH BY CARLTON WARD JR.)
米国フロリダ州南西部のフロリダパンサー国立野生生物保護区で、雄のパンサーが小川を跳び越える。種全体で200頭ほどしかいないが、生息地を回復しつつある。ただ、住宅地の拡大で生息環境が脅かされてもいる。(PHOTOGRAPH BY CARLTON WARD JR.)
この記事は、 雑誌ナショナル ジオグラフィック日本版2021年4月号に掲載された特集です。定期購読者の方のみすべてお読みいただけます。

絶滅危惧種のフロリダパンサーが復活の兆しを見せている。しかし、開発ブームが邪魔をしかねない。

「ようこそ、パンサーの故郷(ふるさと)へ」

 米国フロリダ州イースト・ネープルズの交通量の多い交差点で顔を合わせたとき、ブライアン・ケリーは私にそう言った。州の機関でフロリダパンサーを研究する生物学者の彼は、住宅地が広がる東の方角を指さした(彼自身もまたそこの住人だ)。交差点からほんの500メートル先で1頭のフロリダパンサーがカメラにとらえられたのだという。さらに、別の1頭は、私たちが立っている6車線の道路を渡りおおせた。

 近くには「FP224」と呼ばれている、また別の雌もすんでいる。その8歳の雌はこれまでに2回、車にはねられ、そのたびに脚の骨を折った。どちらのときも治療を受け、野生に戻された。FP224を探して、私たちはケリーの家に車で向かった。彼の家に隣接する林で、その雌パンサーは最近、少なくとも3頭の子を産んでいたのだ。折しも雨期で、普通は足跡が雨に消されてしまうのだが、私たちはラッキーだった。

「いましたよ」とケリーは言い、軟らかな砂地に残された、人間の拳ほどの大きさの足跡を指さす。私たちは足跡をたどり、着生植物をまとった背の高いマツやサバルヤシの木立を抜けた。ケリーが設置した自動撮影カメラをチェックすると、その前々日の午後9時少し前に、そこを通過するFP224の姿がとらえられていた。

コークスクリュー湿地保護区を歩き回るパンサーの母子。ヌマスギの古木が林立する保護区は、三方を住宅地に取り囲まれている。自動撮影カメラでパンサーの姿をとらえるには、たいてい何年もかかる。パンサーの数が少ない上に、動きは予測できず、適切な光量を得ることも難しいからだ。ハリケーンなど天候が障害になることもある。(PHOTOGRAPH BY CARLTON WARD JR.)
コークスクリュー湿地保護区を歩き回るパンサーの母子。ヌマスギの古木が林立する保護区は、三方を住宅地に取り囲まれている。自動撮影カメラでパンサーの姿をとらえるには、たいてい何年もかかる。パンサーの数が少ない上に、動きは予測できず、適切な光量を得ることも難しいからだ。ハリケーンなど天候が障害になることもある。(PHOTOGRAPH BY CARLTON WARD JR.)

 その足跡を見ていると心が躍ってくる。フロリダ州に今も、手つかずの自然と大型ネコ科動物が息づいている証しだからだ。開発によって拡大する郊外の住宅地の片隅で、人目につかずにしぶとく生き抜くパンサーもいる。

 成獣の雌で体重が30キロ、雄で75キロほどになり、一度に10メートル近くも跳躍できるパンサーの姿や足跡を、フロリダ州の住民の大半が目にすることはないだろう。だが、パンサーが生息する州南西部と中部に広がる広大な湿地や森林、平原には、人の手によって今にも開発されようとしているところが多い。

危機に追いやられたパンサー

 ピューマの亜種に分類されるフロリダパンサーは、かつては米国南東部のほぼ全域に生息していた。だが、ハンターたちの標的となり、1970年代までにフロリダ州でしか見られなくなった。個体数は30頭を下回り、近親交配の悪影響が出やすい状態になっていたという。ケリーが言うには、絶滅寸前だったのだ。

 そこで、研究者たちは前代未聞の救援作戦を考えついた。90年代半ば、世界最高のピューマ追跡者とされるロイ・マクブライドを雇い、彼の地元のテキサス州で8頭の雌のピューマを捕獲して、それらをフロリダ南部に放したのだ。そのうち5頭が子を産んだ。こうして遺伝的多様性がもたらされたことで、フロリダパンサーの負のスパイラルは反転した。

次ページ:パンサーの将来に暗雲もたらす脅威とは

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