写真家は見た ローマ教皇、史上初となるイラク訪問のもつ意味

パンデミックのさなかに実現した訪問、イラクのキリスト教徒の希望に

2021.03.18
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
ギャラリー:教皇フランシスコ コロナ禍の中でのイラク訪問 写真16点(写真クリックでギャラリーページへ)
2021年3月5日、イラクに到着した直後、首都バグダッドの大統領府で歓迎を受けるローマ教皇フランシスコ。現職の教皇がイラクを訪問したのは今回が初めてだ。(PHOTOGRAPH BY MOISES SAMAN)

2021年3月、ローマ教皇フランシスコがイラクを訪問を果たした。歴代のローマ教皇で初となる訪問は、イラクのキリスト教徒たちにどう映ったのか。取材にあたった写真家モイセス・サマン氏が語る。

 イスラム教徒が99%を占めるイラクにおいて、北部のカラコシュはキリスト教徒が多数を占める町だ。2016年に私が訪れたとき、町には生活を感じさせるものが何一つなかった。イラク軍とその同盟国がモスルを奪還する過程で、過激派組織「イスラム国」(IS)の戦闘員から町を解放したばかり。残されていたのは落書き、がれき、腐りかけの食べ物だけで、ISの民兵、そして地元住民もすでに立ち去っていた。生き延びたい一心で逃げたことが伝わってきた。(参考記事:「「イスラム国」、なぜ宗教遺跡を破壊?」

 2021年3月最初の週末、私は再びカラコシュを訪れた。ローマ教皇フランシスコの歴史的なイラク訪問を撮影するためだ。かつて空っぽだった通りでは、色とりどりの風船が揺れる。建物や壁は白く塗り替えられ、輝いているように見える。教皇を一目見ようと大勢のキリスト教徒が集まり、イラクとバチカンの国旗を振っている。(参考記事:「ローマ教皇フランシスコの率直すぎる10の発言」

 ある商人は活気に満ちた青空市場で果物を売りながら、「教皇が毎年来てくれたら最高ですね!」と冗談を言った。

 20年近く前にイラクでの取材を開始してからというもの、私は、この国とここに暮らす人々が紛争によって深く傷ついていく姿を目の当たりにしてきた。今回、教皇の訪問を追跡取材しながら、これまでにない希望と受容を見いだしたと感じている。パンデミックや安全上の懸念など、さまざまな障害があったにもかかわらず、あれほど高名な人物がイラクにやって来たことは、あらゆる信仰を持つ人々にとってのターニングポイントだと感じた。

 教皇がイラクを訪問したのはこれが初めてだ。ただ、これまでバチカンが努力しなかったわけではない。先々代のヨハネ・パウロ2世も先代のベネディクト16世もイラク訪問を試みたが、イラク国内の紛争や戦争のため実現しなかった。そのため、2019年7月にイラクのバルハム・サレハ大統領から招待状を受け取ったとき、教皇は快諾した。パンデミックを理由に国外への渡航を15カ月中断した後、教皇は最初の目的地としてイラクを選択した。(参考記事:「揺れ続けたイラク1200年の歴史」

 しかし、イラク訪問は危うく実現しないところだった。84歳の教皇は1月にワクチン接種を受けているが、教皇のイベントに参加した人々の間でウイルスが拡大するのではないかと多くの人が心配したためだ。イラクは2020年9月、新型コロナウイルスの感染者数がピークに達したが、現在再び最悪の状態に陥っている。安全上の懸念も尽きなかった。教皇が到着するわずか数日前にも首都バグダッドで爆破事件が起きている。イベント会場や通路はバチカンの警備員、イラク軍、地元警察によって厳重に取り囲まれた。

ローマ教皇フランシスコの歴史的な訪問を数日後に控え、キリスト教徒が多数を占めるイラク北部のカラコシュでは、人々が祝福のために通りを行進していた。カラコシュは2014年に過激派組織「イスラム国」(IS)に占領されたが、2016年の解放後、多くのキリスト教徒が町に戻っている。(PHOTOGRAPH BY MOISES SAMAN)

教皇、聖人、そしてイスラム世界

 私はカトリック教徒として育ったが、信心深いとは言えない。もちろん、教皇フランシスコのことは知っているし、民衆の味方だという評判も聞いていた。アルゼンチン、ブエノスアイレスの聖職者だった時代の教皇は、地下鉄に乗り、スラム街の信者たちと交流することでも知られていた。「貧しい教会、貧しい人々のための教会をどれほど望んでいることか!」と発言したこともある。

ギャラリー:教皇フランシスコ コロナ禍の中でのイラク訪問 写真16点(写真クリックでギャラリーページへ)
修道院として使われているカラコシュ郊外の洞窟の入り口に人々が集まり、祈りをささげ、ろうそくをともし、願い事をしている。イラクには世界最古の部類に入るキリスト教コミュニティーがいくつか存在する。イラクのキリスト教徒は何世紀にもわたり、ユダヤ教、イスラム教、ゾロアスター教を含むほかの宗教と共存してきた。(PHOTOGRAPH BY MOISES SAMAN)

次ページ:イラクのキリスト教徒たちに与えた希望

ここから先は「ナショナル ジオグラフィック日本版サイト」の
会員の方(登録は無料のみ、ご利用いただけます。

会員登録(無料)のメリット

  • 1ナショジオ日本版Webの
    無料会員向け記事が読める
  • 2美しい写真と記事を
    メールマガジンでお届け

おすすめ関連書籍

新生バチカン 教皇フランシスコの挑戦 増補改訂版

教皇の日々の行動の感動的な写真やバチカン宮殿内部の貴重な写真を通して、改革を目指す教皇の理念と知られざる素顔を明らかにする。初版発行時以降の教皇の行動録や発言録などを増補として収録。 〔全国学校図書館協議会選定図書〕

定価:3,080円(税込)

  • このエントリーをはてなブックマークに追加