「アイルランドにヘビがいないのは聖パトリックのお陰」は本当か

3月17日は聖パトリックの日、聖人の伝説を科学的に説明すると

2021.03.17
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言い伝えでは、聖パトリックがアイルランドのヘビを海へ追いやったとされる。(PHOTOGRAPH BY CORBIS)
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 3月17日は「聖パトリックの日(セント・パトリックス・デー)」。アイルランドにキリスト教を広めた聖人、聖パトリックの命日だ。カトリックの祝日として、各地で盛大な行事が行われる。(参考記事:「サンタの歴史:聖ニコラウスが今の姿になるまで」

 伝説では、5世紀にアイルランドでキリスト教を伝道していた聖パトリック(パトリキウス)が、この国からヘビを追い払ったとされている。彼が丘の上で40日間の断食を行っている間に襲ってきたヘビを、海へ追いやったというのだ。

 アイルランドが、在来種のヘビのいない珍しい国であることは本当だ。このような場所はニュージーランドやアイスランド、グリーンランド、南極大陸など、世界でも数えるほどしかない。

 しかし、科学者らによると、アイルランドにヘビが存在しないことと、聖パトリックの間には何の関係もないという。

 首都ダブリンにあるアイルランド国立博物館で自然史を編さんしているナイジェル・モナハン氏は、アイルランドの動物の化石など、膨大な記録をくまなく探した。「いかなる時点でも、アイルランドにヘビがいた形跡はありません。聖パトリックが追い払うまでもなかったのです」とモナハン氏は言う。

 では、なぜヘビはいなかったのか?

 多くの科学者が指摘するのは、今から1万年前まで続いた直近の氷河期のアイルランドは、爬虫類が暮らすには寒すぎたということ。そして氷河期が終わったときには、この島は海に囲まれ、ヘビが渡っていくことはできなくなっていたというものだ。

取り残された島

 大地を覆っていた氷が解け、マンモスが北方に遠のいていった頃、北欧と西欧にはヘビが戻り、北極圏にまで分布を広げた。

 約6500年前まで陸橋で欧州本土とつながっていた英国のグレートブリテン島には、ヨーロッパクサリヘビなど3種のヘビが定着した。

 しかし、アイルランド島とグレートブリテン島をつなぐ陸橋は、その2000年ほど前に氷河が解けて海になったと、モナハン氏は述べている。

 ヒグマ、イノシシ、オオヤマネコなどの動物は、海が越えられないほどになる前にアイルランドへ到達していたが、「ヘビは違った」という。「ヘビの個体群が新しい地域に定着するには時間がかかります」とモナハン氏。

次ページ:もしもヘビが放たれたら?

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