私は死刑囚だった

無実の罪で死刑宣告を受けた人々の物語

2021.02.26
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アルバート・バレル
死刑宣告を受けた場所:ルイジアナ州ユニオン郡
服役13年
すべて死刑囚監房
2001年に無罪が確定

バレルは現在66歳。一審では、2人を殺害したとして第一級謀殺で有罪となったが、控訴裁判所は、検察が陪審を誤った判断に導き、被告人に有利な証拠の提出を怠ったことを理由に、再審理を命じた。州当局は被告人を犯行と結びつける、信頼に足る証拠は一切ないと判断したため、バレルは釈放された。(PHOTOGRAPH BY MARTIN SCHOELLER)

服役年数は、月単位を6カ月以下は切り捨て、7カ月以上は切り上げたもの。判決が出る前の拘留期間は含まれていない。
この記事は、雑誌ナショナル ジオグラフィック日本版2021年3月号に掲載された特集です。定期購読者の方のみすべてお読みいただけます。

1973年以降、米国では8700人以上が死刑宣告を受け、1500人以上の死刑が執行された。しかし、死刑宣告を受けた人のうち182人は無罪だった。これは、正義が行われなかった物語である。

 63歳の元死刑囚クワミ・アジャムは、米国オハイオ州クリーブランド郊外の私(ジャーナリストのフィリップ・モリス)の自宅の近所に暮らしている。1975年、アジャムはクリーブランド東部で小為替の販売員ハロルド・フランクスを殺害した罪で死刑を宣告された。当時、彼は17歳だった。

 有罪の決め手となったのは、13歳の少年の目撃証言だ。彼は、アジャム(事件当時の名前はロニー・ブリッジマン)ともう一人の若者が街角でフランクスを襲うのを見たと証言した。アジャムと事件を結びつける証拠は、法医学的証拠も物証も一切なかった。アジャムには前科もなく、犯行時刻に街角にはいなかったという別の証言もあった。だが、逮捕からわずか数カ月後、高校生だったアジャムは死刑を宣告された。

 それから39年後に明らかになった事実がある。アジャムに不利な証言をした少年は、すぐにその供述を撤回しようとしていた。しかし、クリーブランド警察の殺人課の刑事が、撤回したら彼の両親を保護者として偽証罪で逮捕し、訴追すると脅したのだ。アジャムは27年間服役した後、2003年に仮釈放された。だがオハイオ州が彼の無罪を認めたのは、それからさらに12年近く後、事件に関連した法廷審問で元少年の当初の証言が偽りであり、警察が不正行為を犯したことが明らかにされてからだ。

 私はアジャムをはじめ元服役者たちに会って話を聞いた。彼らの背景は実に多様だが、魂を押しつぶされるような重荷を背負っていることは共通している。彼らは全員、身に覚えのない罪に問われ、死刑を宣告された人たちだ。

 出所後に元死刑囚として過ごす日々は、身の潔白を信じてもらえず獄中にいた日々に劣らず、彼らを怖気づかせ、震え上がらせ、混乱させる。冤罪で死刑となり、刑の執行を待つ身となった元囚人が直面する心的外傷後のストレスは、釈放され、政府に謝罪されて、補償金を支払われたとしても(支払われない場合が多いのだが)、すぐに解消するようなものではない。

 その教訓は極めて重い。無実の罪で死刑宣告を受けた人の存在は、非人道的な死刑の存続に対する、この上なく説得力ある反証だ。

 とりわけ米国にとっては、この教訓は鋭い警告となる。米国よりも死刑執行件数が多い国は、世界でも数えるほどだ。また米国では、被疑者の人種や所得の低さなどの要素、あるいは被疑者が警察と検察の過剰な執念に対抗できないことなどによって、不当な有罪判決が下され、刑を執行されるリスクが高まりかねない。

 特に人種は大きな要因だ。2020年4月時点で、黒人は米国の人口の13.4%を占めるにすぎないが、死刑囚の41%以上を占めている。

 過去30年、「イノセンス(無罪)・プロジェクト」などの団体は、死刑が求刑される裁判では特に、米国の司法制度がいかに危険な誤りを犯しうるかを明らかにしてきた。1973年以降、DNA鑑定の実施や、捜査官、検察官、公選弁護人の言動の厳しい検証により、無実が証明され、釈放された元死刑囚は182人にのぼる。ほかの刑も含めれば、1989年から2020年12月までに明らかになった冤罪事件は2700件以上もある。

 私が取材した元死刑囚は全員、「ウィットネス・トゥ・イノセンス(無実の証人、略称WTI)」に所属している。WTIは2005年からペンシルベニア州フィラデルフィアに本拠を置くNPOで、無罪を勝ち取った元死刑囚が運営している。主要な活動目標は、死刑の非人道性について訴えて世論を動かし、米国で死刑廃止を実現することだ。

 この15年間、WTIが連邦議会や各州の議会、政策顧問や学者などに働きかけてきたことも手伝って、いくつかの州では死刑が廃止されたが、今でも全米28州、連邦政府、米軍は死刑を採用している。2020年に米国では17人の死刑が執行されたが、うち10人は連邦政府による執行だった。連邦政府による死刑執行件数が州政府の執行件数の合計を上回ったのは、これが初めてだ。

次ページ:米国における収監中の死刑囚の数は…

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