今回の成功は、クローンが種の保全の有効な手立てになり得ることを示唆していると、R&Rのエグゼクティブ・ディレクター、ライアン・フェラン氏は話す。また、希少種や絶滅危惧種の細胞を保存する重要性も示していると、サンディエゴ動物園の保全遺伝学のディレクター、オリバー・ライダー氏は言う。
クロアシイタチはこれまで、ノミが媒介する細菌感染症で、死に至ることもある森林ペストの脅威にも長く直面してきた。現在、クロアシイタチの存続を脅かす主な要因はこの病気だ。研究者たちは、新たな遺伝子多様性が森林ペストへの耐性をもたらすことを願っている。遺伝子の改変もまた将来の選択肢だとフェラン氏は言う。
2024年か25年に野生に再導入の可能性
絶滅危惧種であるクロアシイタチのメスを危険にさらすことを避けるため、まずは近縁種であるフェレットに鎮静剤を投与し、卵子を採取することからクローンの作成は始まった。この卵子を成熟させ、ピペットを用いて核と遺伝物質を取り除く。そして、ウィラの細胞の中身をそれぞれの卵子に移した後、基本的には電気で刺激を与え、細胞分裂を促したと、ウォーカー氏は説明する。このようにして培養された胚(受精後のごく初期の段階)を、再びフェレットに移植した。
本質的には、25年前に羊のドリーを誕生させたやり方と同じだ。しかし、遺伝物質を異なる種に移植するため、今回の方がわずかに複雑になる。
エリザベス・アンは、12月10日、コロラド州の魚類野生生物局のクロアシイタチ保護センターで生まれた。名前に特別な意味はなく、国立クロアシイタチ保護センターが、そこで生まれた多くの動物に名前を付けるために作成したリストに載っていただけだという。
これまでの検査によれば、彼女は健康だ。彼女のモニタリングは続けられており、ゆくゆくは繁殖することを科学者は願っている。すべてがうまくいけば、彼女の孫かひ孫が2024年か25年に野生に再導入される可能性があると、R&Rの科学者ベン・ノバク氏は言う。
30年前にはわかっていなかったこと
科学者の予想では、動物のクローンの子孫を野生に再導入することによる悪影響はない。過去に野生に再導入されたすべてのクロアシイタチと同じように、彼女の子孫は、まず屋外の囲いの中で順応させ、様子を見ることになるだろうと、ゴーバー氏は言う。飼育下で繁殖した個体は、そこでプレーリードッグを狩ることができ、自力で生きていくために必要な他のスキルを持っていることを示さなければならない。
死後長時間たった個体からクローンが作られた絶滅危惧種は、エリザベス・アンが初めてではない。R&R、サンディエゴ動物園、バイアジェンは、以前にも共同で絶滅危惧種であるプシバルスキーウマ(モウコノウマ)のクローンを作り、2020年8月に誕生させている。(参考記事:「動物大図鑑:プシバルスキーウマ」)
ライダー氏は、冷凍動物園が保存していた30年以上前の細胞からクローンを作れたことに興奮していると言う。1980年代後半にウィラの皮膚の生体組織を採取してクロアシイタチの遺伝子を調べた時には、そのような細胞はクローンには使えないと考えられていた。同氏によれば、今では、それらを幹細胞に変えられる。その後、あらゆる種類の体細胞に分化できる細胞だ。
現在生き残っているクロアシイタチはすべて、兄弟姉妹やいとこぐらいの血縁関係にある。しかし今、エリザベス・アンの中で生きているウィラの遺伝子は、その3倍の遺伝的多様性を持っているとフェラン氏は言う。この遺伝的多様性が加われば、繁殖がより容易になり、病気やストレスへの耐性を高められるかもしれない。
ライダー氏は語る。「遺伝子のプールを広げることは、種の長期的な持続可能性を助ける絶好のチャンスのようです」
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