せせらぎの再生を目指して パリの地下に埋められた幻の小川

セーヌ川支流で唯一フランスの首都を流れるビエーブル川、その流れはよみがえるか

2021.02.18
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
パリの郊外、ヴァレ・ド・ラ・マルヌを流れるビエーブル川。この区間は地下に埋められなかった。(PHOTOGRAPH BY MICHAEL LUMBROSO, REA/REDUX, REDUX)
パリの郊外、ヴァレ・ド・ラ・マルヌを流れるビエーブル川。この区間は地下に埋められなかった。(PHOTOGRAPH BY MICHAEL LUMBROSO, REA/REDUX, REDUX)
[画像のクリックで拡大表示]

 筆者(ライターのメアリ・ウィンストン・ニックリン氏)が暮らすフランスのパリ左岸地区には、かつて「ビエーブル川」という小さな川が流れていた。ビエーブル川は、パリ南端、13区のケレルマーヌ公園から市街に入り、製粉所や皮なめし工場に水を供給し、5区でセーヌ川と合流していた。ところが20世紀初め、深刻な水質汚染による悪臭が問題となって、川は地下に埋められ、流れる水は下水道とつなげられてしまった。(参考記事:「2011年2月号、特集:ようこそ、パリの地下世界へ」

(NGP, Content may not reflect National Geographic's current map policy. )
(NGP, Content may not reflect National Geographic's current map policy. )

 セーヌ川の支流として唯一パリ市内を通っていたのがビエーブル川だ。パリを訪れる観光客の夢とロマンをかきたてるセーヌ川とは違い、ビエーブル川の存在を知っているのは地元の人くらいで、この川の再生は情熱的なパリっ子(パリジャン)にとって長年の悲願となっていた。

 その夢が、ようやく現実のものとなろうとしている。数年前に、郊外にある上流の一部が再開され、パリでも市内を流れる区間の川の再生が可能かどうかの調査が始まった。マドリードやソウルなどでの河川再生事業と同様に、ビエーブル川の再生は、2024年のオリンピックを控えたパリにおいて環境意識が高まっていることのあらわれだ。

「気候変動や熱波、生物多様性の脅威に直面している今、河川再生計画への動きが活発化しています」と、パリ副市長でエコ社会への移行・気候計画・水・エネルギー担当のダン・レート氏は言う。「これまでのような都市開発を続けていくわけにはいきません。住民も、環境問題に町を適応させることを望んでいます」

パリ市内は20世紀に暗渠に

 ビエーブル川の水源は、パリの南西約36キロのギュイヤンクールにある。そこから4つの県を通って、森の中の泉やベルサイユ宮殿の噴水にも水を供給していた。川はさらに下った河岸の町々を潤し、パリに到達すると地下へと潜る。そして、最終的にはオステルリッツ駅の近くで人知れず口を開けた排水管からセーヌ川へ注ぎ込んでいる。(参考記事:「ベルサイユ宮殿の栄華を支えた巨大揚水装置「マルリーの機械」」

 この川のうち、地上に出ている部分は19キロ。1912年には、パリ市内を流れる部分はすべて暗渠(あんきょ)化された。その後、ジャンティイなど郊外を流れる一部区間も、1950年代に地下に埋設。パリの歩道に沿って並ぶように残った円形の記念碑が、かつてここに川が流れていたことを伝えている。

 ビエーブル川の起源は、『Sur les Traces de la Bièvre Parisienne (パリ・ビエーブル川の痕跡をたどる)』という本に記されている。紀元前5000年の新石器時代、ビエーブル川は現在のパリを通るセーヌ川の川床を流れていた。一方、セーヌ川は少し北にあるベルビルとモンマルトルの丘のふもとを蛇行していたが、洪水をきっかけにセーヌ川がビエーブル川の流路を乗っ取り、現在に至ったと考えられている。

ギャラリー:ありし日のノートルダム大聖堂 写真17点(写真クリックでギャラリーページへ)
ギャラリー:ありし日のノートルダム大聖堂 写真17点(写真クリックでギャラリーページへ)
1920年代のノートルダム大聖堂。セーヌ川のほとりににあり、何世紀もの間、パリの象徴であり続けた。2019年4月中旬、一部の建物が修復不可能なほどに火事で焼けてしまった。(Photograph by Crete, Nat Geo Image Collection)

次ページ:この川だから染められた

ここから先は「ナショナル ジオグラフィック日本版サイト」の
会員の方(登録は無料のみ、ご利用いただけます。

会員登録(無料)のメリット

  • 1ナショジオ日本版Webの
    無料会員向け記事が読める
  • 2美しい写真と記事を
    メールマガジンでお届け

おすすめ関連書籍

世界の地下都市 大解剖

立体イラストで巡る、見えない巨大インフラ

世界の大都市の地下空間に建設された様々な構造物を精密な立体イラストで解説。中でも世界各都市の地下鉄建設史を詳しく紹介。 〔全国学校図書館協議会選定図書〕

定価:3,520円(税込)

  • このエントリーをはてなブックマークに追加