探査機を導く現代の火星地図
20世紀に入ってしばらくすると、火星に対する私たちの見方は変わっていった。写真に撮られた火星は、ローウェルが想像した火星像を払拭し、慎重に描かれたグリーンの地図にずっと近い、陰影のあるぼやけた地表の様子を明らかにした。そして、20世紀半ばにやってきた宇宙時代には、多くの探査機が火星表面の画像を間近で撮影し、さらに緻密な観察を可能にした。
そうして、かつて私たちが宇宙人の存在を夢見た神秘の舞台は、殺伐として乾燥した不毛の風景に置き換わったのである。
「惑星の地図を作成する精度は、時代とともに飛躍的に進化してきました。望遠鏡を通して形成されたあらゆる火星の概念が、マリナー9号やバイキング計画の時代を経てひっくり返り、火星の姿についての全く新しい視点が得られました」と、現在の火星地図を作成している米地質調査所(USGS)のロビン・ファーガソン氏は言う。
2月18日(米国時間)、NASAの探査車「パーシビアランス」が火星に着陸する際にも、USGSのファーガソン氏らのチームが作成した2つの詳細な火星地図が重要な役割を果たした。
これらの地図は、探査車が着陸するクレーター内の長径7.7キロ、短径6.6キロの楕円形を描いたもの。楕円の中には、安全に着陸できる場所とそうでない場所があり、大きな岩、崖の端、問題となる可能性がある砂地など、危険と考えられる場所には印が付けられている。
火星の薄い大気圏をパラシュートで降下する際、パーシビアランスは5つの異なる高度から画像を撮影し、搭載している地図と比較する。そして学習した情報に基づいて自動的にコースを調整し、印のついた危険なエリアを避けて安全な場所に着陸した。
「この技術は着陸地点への接近方法に革命をもたらしました」とファーガソン氏は話す。「これまでよりもはるかに多くの危険が楕円内に存在していても、着陸することが可能になったのです」
しかし現代の火星地図がもたらすのは、こうした科学的な恩恵だけではない。私たちが火星における人類の未来を想像するのにも役立っている。
例えば、小説家アンディ・ウィアー氏が映画『オデッセイ』の原作『火星の人』を書いた際、氏を興奮させたのは、これまでのNASAの探査車が火星の地上から撮った70万枚の画像ではなかった。
「地表の画像は素晴らしく、広大な荒れ地を見渡すマーク(主人公のマーク・ワトニー)になったような気分を覚えました」とウィアー氏は言う。「しかし、私が本当に気に入ったのは周回機が撮った画像から作った地図です。火星地図上で彼の旅の計画を立てるのが楽しかったんです」
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