19世紀の火星地図論争、火星人ブームの引き金に

魅惑の火星を描いた100年前の地図作成者たち

2021.02.20
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 一方、イタリアの天文学者ジョバンニ・スキャパレッリも火星をスケッチしていた。グリーンとは違い、スキャパレッリが火星を観測するのは初めてだった。1877年から始めて8カ月間、スキャパレッリはミラノの屋上で望遠鏡をのぞき込み、火星の表面の特徴を素早く描きとめ、後からそれを手直ししていった。

 スキャパレッリの地図は個人的な観察のみに基づいていた。彼の火星は、しっかりした線で描かれた世界だった。青く塗られた奇妙に直線的な水路が何十本もあり、それらが島々を囲んでいた。彼はこうした不思議な地形に、地中海の神話に登場する場所にちなんだ名前を付けた。

参考ギャラリー:火星地図はこんなに進化した!200年の歴史 画像15点(画像クリックでギャラリーへ)
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イタリアの天文学者ジョバンニ・スキャパレッリの1878年の最初の火星マップの1つ。(MAP COURTESY ARCHIVIO STORICO DELL'OSSERVATORIO ASTRONOMICO DI BRERA)

「それは実に思いきった発表でした」。レーン氏はナショナル ジオグラフィック2021年3月号でそう語っている。「自分が見たものは過去の観察とはあまりにも違うから、同じ名前なんて使えない。彼はそう主張したわけです」

 グリーンはスキャパレッリの解釈に反対した。そして2人とも自分が描いた地図の正しさを証明しようと、自らの仕事を偏りのない客観的なものだと主張して論争を繰り広げた。だが、グリーンの地図がやがて世間の目に触れなくなる一方で、スキャパレッリの地図は、知性を持った宇宙人が隣の惑星に住んでいるのではないかという説を盛り上げる役割を果たした。

 スキャパレッリの地図は、人々の目により魅力的に映った。グリーンの地図にはない情報や特徴が詰め込まれていたからだ。さらに、地形がくっきりと描かれたスキャパレッリの地図には、ややぼんやりとしたグリーンの地図よりも、本当らしいと感じさせる力があった。それに、何と言ってもスキャパレッリはプロの天文学者だった。情報が少ないように見えるグリーンの地図の方が火星をより正しく表現していると主張するのは難しいことだった。

「最終的に、スキャパレッリの地図が決定版とされました」とレーン氏は言う。「地名、暗い色の線を使った描き方、地形の間の明確な線などが、視覚的に正しいと思わせるものだったのです」

 スキャパレッリの地図は、第一級の火星マニアだったパーシバル・ローウェルの想像力をも刺激した。ローウェルは水路を、宇宙人の造った人工物だと考えた。

「スキャパレッリは、火星にある線が人工的なものだとは主張しませんでした」とレーン氏は言う。「とはいえ、彼は反論することもありませんでした」

 1894年、ローウェルは米アリゾナ州フラッグスタッフ郊外に天文台を建設し、次の火星接近時にスケッチができるようにした。そして同年の後半、火星を熱心に観察し、表面の特徴を自分の地図に描きこんだ。

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パーシバル・ローウェルが1895年に出版した著書『火星』に載せた火星マップ。彼が名前をつけた184本の運河には番号がふってある。(MAP BY PERCIVAL LOWELL)

 ローウェルは新たに116本の水路を「発見」し、それらは火星の両極から乾燥した赤道地帯に水を送る大規模な灌漑ネットワークの一部だと考えた。そうしてローウェルらは、大衆に「地球外生命体は存在する」と信じさせるような魅惑的な物語を構築した。

「その物語はあまりに強烈で、今となっては想像できませんが、ほんの100年ほど前は教育を受けた普通の市民でさえ、天文学者が言うには火星には文明があるそうだと、全くもって純粋に信じていたのです」と、火星を舞台にした小説を書いた作家のキム・スタンレー・ロビンソン氏は言う。

次ページ:探査機を導く現代の火星地図

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