世界で最も有名な遺跡の1つ、英国のストーンヘンジ。4600年前にイングランド南部のソールズベリー平原に造られたこの遺跡は、今も多くの謎に包まれている。
最新の研究で、このストーンヘンジの始まりについて新たな物語が提唱された。2月12日付けで学術誌「Antiquity」に発表された論文によると、ストーンヘンジはオリジナルな創造物ではなく、ウェールズにあるさらに古い遺跡がその前身であるかもしれないというのだ。
その遺跡とは、ウェールズにある「ワイン・マウン」というストーンサークル(環状列石)。ストーンヘンジと同等の大きさで、石の配置と太陽との関わりも似ている。さらに、一部は同じ材料を使っているようにも見える。ストーンヘンジとの違いと言えば、現在のワイン・マウンには石がほとんどないことだ。
研究チームは、ワイン・マウンの建設者たちはが約5000年前にこれを解体し、その石の一部を280キロ東のソールズベリー平原まで運び、ストーンヘンジの建設に使ったのではないかと推測している。彼らは何のために、恐ろしく手間がかかり、実用的でもないそんな作業を行ったのだろうか?

そのカギになるのが、ストーンヘンジに移設されたとされる重さ3トンの石「ブルーストーン」だ。古代ブリトン人にとって、ブルーストーンは「貴重品だっただけでなく、自分たちが何者であるかを示す本質でもあったのでしょう」と、今回の論文の筆頭著者である英ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)のマイケル・パーカー・ピアソン氏は語る。氏の研究にはナショナル ジオグラフィック協会も支援している。
ワイン・マウンでの発見は、実に刺激的な仮説につながると氏は考えている。ストーンヘンジのブルーストーンは、この地に移住してきた彼らの先祖やその記憶を示すものだったという説だ。新石器時代のブリトン人は、文字通り先祖の重みを背負って大地を横断していたことになる。
しかし、現段階で結論を出すのはまだ早いと、論文の著者らも認めている。「ストーンヘンジについていつも面白いと思うことの一つは、おそらく永遠に答えの出ない問いがたくさんあることです」と、「レスキュー英国考古学トラスト」の副会長ケイト・フィールデン氏は言う。なお氏は今回の研究には関わっていない。「私は、謎があるということが好きです」
古代の伝説に手がかりが?
考古学を支える科学の進歩のおかげで、過去数十年でストーンヘンジがどのように造られたかについての可能性は絞り込まれてきている。夏至と冬至に合わせて石が配置されていることからは天文学的な関連が、また多数の火葬人骨からは死者や祖先崇拝とのつながりが示唆されている。(参考記事:「ここまでわかったストーンヘンジ、その謎と壮大な規模」)
ストーンヘンジは短期間で完成したわけではない。5000年前に建設が始まり、その後何百年もかけてさまざまな形に変化していったが、最終的には2種類の石から造られている。馬蹄型に並ぶ中央の巨石部分と外側の円を構成するのは、20トンもの板状のサーセン石(砂岩の一種)。それらの間に円弧を描くように配置されているのが、ブルーストーンである。
解析により、サーセン石はストーンヘンジ近くのウェストウッズから採取されたと示唆されている。対してブルーストーンは、300キロ近く離れたウェールズ南西部のプレセリ山地から、はるばる陸路で運ばれてきたと考えられている。パーカー・ピアソン氏らは最近、ウェールズの2つの採石場で、ストーンヘンジのブルーストーンと完全に一致する特徴を発見した。(参考記事:「ストーンヘンジの石柱、採石場を特定、研究発表」)