130年以上前に発見された蛾、ついに生きた姿を撮影

「PHOTO ARK(写真の箱舟)」プロジェクト、記念すべき1万1000種目に

2021.02.15
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2020年9月、米ニューメキシコ州サンタフェの近郊でジョエル・サートレイ氏が捕獲したガ、ロングトゥースト・ダートモス。(PHOTOGRAPH BY JOEL SARTORE, NATIONAL GEOGRAPHIC PHOTO ARK)
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 新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)が始まってから1カ月がたった頃、写真家のジョエル・サートレイ氏は米ネブラスカ州リンカーンの自宅で、朝早く新聞を取るために外へ出た。いつもなら仕事で1年の半分は家を空けているが、コロナで取材がことごとくキャンセルされ、ふさぎ込んでいた。

 ポーチに出ると、外灯に群がる虫に目が留まった。トンボやセミ、コガネムシのような甲虫を見ていたら、沈んでいた気分がぱっと明るくなった。

「昆虫やその他の無脊椎動物を撮影していれば、パンデミックの間もきっと忙しくなるに違いない。そう思ったんです」。サートレイ氏は、動物を絶滅から守るべく、世界中の動物園と野生生物保護区にすむ全ての動物を撮影するナショナル ジオグラフィックとの撮影プロジェクト「PHOTO ARK(フォト・アーク、写真の箱舟)」の発起人だ。

 その日から、サートレイ氏は成人した2人の子どもと友人らと一緒に、昆虫を探しに出かけ始めた。協力してくれた友人のローレン・パデルフォードさんとバブス・パデルフォードさんは、定年後にネブラスカ州を拠点として昆虫の写真を撮影しているアマチュア昆虫学者だ。

 一同は早速、ネブラスカ州と、隣接する5州の農地や草原へ出て行き、恐ろしげなアリジゴク(ウスバカゲロウ)から色彩豊かなヨコバイ、細長いサシガメまで、あらゆる小さな虫を見つけては、写真を撮っていった。その結果、わずか8カ月で新たに900種の写真がフォト・アークに加えられた。

THE PHOTO ARK:消えゆく昆虫
野山で昆虫を探すジョエル・サートレイ氏の撮影裏話。

「フォト・アークにとってこれほど重要な生きものたちが、自分のすぐ目の前にいたなんて、ただ驚いています」。サートレイ氏は、虫を見つけたらその場で写真を撮るか、テントに持ち込んで撮影した後、すぐに野生に戻した。

 こうして、10年以上をかけて取り組んでいるフォト・アークの1万1000種目にサートレイ氏が選んだ生きものは、ロングトゥースト・ダートモス(Dichagyris longidens)と呼ばれるモンヤガの仲間だった。

 体長約2.5センチで、米国南西部が原産。1890年に記載されたものの、その後はほとんど忘れられていた。詳しい情報がなく、生きた個体の撮影に成功したのは、なんとサートレイ氏が初めてだという。

「ゴリラやトラといった哺乳類のほうが注目されやすいですが、私たちみんなを救ってくれているのは、昆虫なんです」。昆虫は、花粉媒介者として重要な農作物の成長を助け、有機物を食べることで分解を手伝ってくれる。

 1月12日付けで学術誌「米国科学アカデミー紀要(PNAS)」に発表された論文によると、米国だけでも、昆虫の経済価値は年間約700億ドル(約7兆3500億円)に及ぶという。その一方で、世界の昆虫は今急速に減少していると、多くの研究が警告している。主な理由は生息地の消失と農薬だ。

 論文の筆頭著者である米フロリダ大学の准教授、河原章人氏は、フォト・アークの1万1000種目にガを選んだサートレイ氏の決断を高く評価する。

「これまで見向きもされなかった小さな生きものに、人々の注意を引き付けてくれるでしょう。ガは、その価値が正しく評価されていません」。河原氏は、フロリダ自然史博物館で鱗翅目(チョウやガの仲間)の学芸員も務めている。

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