犬ぞりは誤り、観光業が作った間違いだらけの北欧サーミ文化

「本当のサーミを知ってほしい」本人たちによる新しい観光が始まる

2021.02.12
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フィンランドのラップランド地方にあるレヴィで、トナカイが引くそりに乗る観光客。ここはフィンランドに住む約1万人のサーミの先祖伝来の地だ。(PHOTOGRAPH BY PARKERPHOTOGRAPHY, ALAMY STOCK PHOTO)
フィンランドのラップランド地方にあるレヴィで、トナカイが引くそりに乗る観光客。ここはフィンランドに住む約1万人のサーミの先祖伝来の地だ。(PHOTOGRAPH BY PARKERPHOTOGRAPHY, ALAMY STOCK PHOTO)
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 ヨーロッパの極北地方は「サプミ(Sápmi、「サーミ人の土地」の意)」として知られ、約10万人の先住民サーミが暮らしている。冬にこの地方を訪れると、オーロラ観光からクロスカントリースキー、犬ぞり体験に至るまで、数々のアクティビティが迎えてくれるが、なかでも近年、シンボルになっているのが犬ぞりだ。

「アニマル・ツーリズム・フィンランド」の2018年の報告によると、フィンランドのラップランド地方だけでも4000匹のハスキー犬が観光イベントに使用されている。問題は、「犬ぞりは他の文化からの借り物で、1980年代にラップランド観光に持ち込まれた」ことだと、フィンランド「サーミ議会」のトゥオマス・アスラック・ジュソー議長は話す。サーミ議会は、フィンランドに住む約1万人のサーミ人を代表する組織だ。「犬ぞりは、サーミの文化でもフィンランドの文化でもありません」

 犬ぞり観光は文化的に本物でないばかりか、トナカイを飼育するサーミの人々にも緊張をもたらしている。つながれていない犬や逃げだした犬がトナカイをおびえさせたり、襲撃したり、殺したりする恐れがあるからだ。「犬ぞり観光は、この極北の自然から生まれた伝統的なサーミの暮らしにさまざまな弊害をもたらしているのです」

サーミの人々と伝統的な住居。1890年頃に撮影。サーミ人はフィン・ウゴル語系の先住民で、現在のノルウェー北部、フィンランド、スウェーデン、ロシアのコラ半島に暮らす。(PHOTOGRAPH BY PUMP PARK VINTAGE PHOTOGRAPHY, ALAMY STOCK PHOTO)
サーミの人々と伝統的な住居。1890年頃に撮影。サーミ人はフィン・ウゴル語系の先住民で、現在のノルウェー北部、フィンランド、スウェーデン、ロシアのコラ半島に暮らす。(PHOTOGRAPH BY PUMP PARK VINTAGE PHOTOGRAPHY, ALAMY STOCK PHOTO)
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 犬ぞりだけではない。伝統衣装を着たサーミ人のステレオタイプなイメージなど、この地方の先住民は、長年にわたって、真実と異なる姿で観光に利用されてきた。ヨーロッパ極北地方の観光の人気が高まり、スウェーデンのラップランド地方の収入は、この10年間で86%も増加した。その中で、サーミの人々は観光業界に働きかけ、サーミの物語が正しく伝わる道を模索している。

 2018年、フィンランドでは、サーミ議会が「信頼できる倫理的に持続可能なサーミ観光の指針」を採択した。これは、おもにサーミ人の居住圏で働く非サーミ人観光業者や旅行者に向けたガイドラインだ。

 この指針では、犬ぞりや、この地方で最近登場した「イグルー(カナダ先住民の簡易住居)」ホテルを取り上げ、こうした「借り物の文化」が北極地方の観光の多様性や豊かさを損ない、均質化させる恐れがあると述べている。

 フィンランドのこの指針は、サーミの本当の物語を伝える一歩に過ぎない。サプミの各地で人々は結束し、既成概念を是正し、この地方全体で充実した旅行体験を提供することを目指している。

「散策の自由」の誤解

 フィンランドのサーミの居住圏は、サプミ、つまりノルウェー北部、スウェーデン、ロシアのコラ半島にまで及ぶ広大な地域の一部だ。サーミの人々がここに住み、働いてきた長い歴史があるにもかかわらず、サプミは「手付かずの自然」として宣伝されてきた。

「北極圏の多くの場所で、自然は手付かずのように見えるかもしれません。でも、ほとんどの土地は、地元の人々が利用しているのです」とジュソー氏は話す。「サーミの人々は、この地方で昔からトナカイを飼い、漁や狩りをし、ベリー類を摘むなど、伝統的に利用してきました。観光業界がフィンランドの慣習法である『自然享受権』を宣伝する場合にも、この点を十分に考慮する必要があります」

 北欧では、「自然享受権」つまり「散策の自由」は、基本的な人権とされている。したがって、フィンランドやスウェーデン、ノルウェーでは、だれもが、ほとんどの場所で自由に歩いたり、自転車に乗ったり、スキーをしたり、キャンプをしたりすることができる。こうした権利は慎重に行動する責任を伴うものだが、観光客は、その点を自覚していないことが多いようだ。

次ページ:権利を拡大解釈する観光開発業者

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