【動画】音で世界を「見る」人
ダニエル・キッシュ氏は先天的な目の病気(網膜芽細胞腫)があったため、生後13カ月までにその両眼を失っていた。ほどなく彼は「舌打ち音(クリック音)」を立てながら動き回るようになり、今では主にエコーロケーション(反響定位)を頼りに行動している。(解説は英語です)

 一部のコウモリは、大きさが約0.2mm(人間の髪の毛の太さほど)の物体まで反響定位で感知できる。また、昆虫は常に動いているので、コウモリはひっきりなしに音波を発する必要があり、その回数は1秒間に190回にもなることがある。このように獲物探しは大変であるにもかかわらず、コウモリが1晩に食べる昆虫の量は、自分の体重の半分ほどにのぼる。

 カグラコウモリ科やヘラコウモリ科は、複雑に折り畳まれた大きな鼻を通して反響定位の声を発しており、音波を集中させるのに役立っている。また、返ってくる信号を正確に拾うために、耳の形をすばやく変えられるコウモリもいる。

 南アジアのヨアケオオコウモリなど一部のオオコウモリは、羽ばたき音で反響定位を行っていることが最近の研究で明らかになっている。

ギャラリー:かわいい?コワい?だから魅力的なコウモリ写真集 16点(写真クリックでギャラリーページへ)
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熱帯に生息するコウモリの中には、ホンジュラスのシロヘラコウモリのように、植物の葉でテントを作るものもいる。この小さなコウモリは葉脈をかじって葉を垂れ下がらせ、その中に隠れる。(PHOTOGRAPH BY KONRAD WOTHE, MINDEN PICTURES)

海中の音波

 音が空気中の5倍の速さで伝わる海では、反響定位を用いるのは理にかなった戦略だ。

 イルカやシロイルカ(ベルーガ)などのハクジラは、頭頂部の噴気孔の近くにある特殊な器官を使って反響定位を行う。(参考記事:「オキゴンドウの高度な反響定位能力」

 この部位にあるメロン体という脂肪でできた組織は、音波の減衰を防いで音をクリアにしていると、米ワシントン大学応用物理学研究所の上級海洋学者ウージュン・リー氏は説明する。

 また、ハクジラの下顎から耳にかけても脂肪組織があり、魚やイカなどの獲物から返ってくる反響をクリアにしている。

 ネズミイルカは、天敵のシャチに気づかれないよう、シャチが聞こえない高周波数のクリック音を使ってすばやく反響定位を行っている。

 リー氏によると、マッコウクジラ、シャチ、一部のイルカを除き、ほとんどの海洋哺乳類の反響定位音は高すぎて人間には聞こえない。

ギャラリー:近い! 優雅で楽しげなイルカたち 写真10点(写真クリックでギャラリーページへ)
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ハラジロカマイルカ(Lagenorhynchus obscurus)は、互いにコミュニケーションを取り合って、カタクチイワシの群れをボール状に追い込む。アルゼンチンのゴルフォ・ヌエボで撮影。(PHOTOGRAPH BY BRIAN J. SKERRY, NATIONAL GEOGRAPHIC CREATIVE)

音を頼りに進む

 狩りや防御のためだけでなく、単に移動するために反響定位を使う動物もいる。

 例えば、南北アメリカ大陸に広く分布するオオクビワコウモリは、ほかの動物の鳴き声でにぎわう森などの騒々しい環境の中を、ソナーを使って飛んでいく。

 アマゾンカワイルカも、洪水の季節に発生する木の枝などの障害物を回避するために反響定位を使うことがあるとリー氏は言う。

 反響定位を使える人のほとんどは目が見えないか視力に障害があり、この能力を駆使して日常生活を営んでいる。舌や杖などを使ってクリック音を出し、その反響を利用して歩く人もいる。そうした人の脳を調べたところ、彼らが反響定位を用いるとき、視覚情報を処理する脳の一部が活動していることが示されている。(参考記事:「音で世界を「見る」」

「脳は遊休地を持ちたがりません」とアレン氏は言う。人間の脳に反響定位のための専用の領域がないのは、不必要な能力の維持は「維持にコストがかかりすぎる」からだ。

 それでも人間には驚異的な適応力がある。私たちも根気よく訓練することで反響定位を習得できることが、研究から明らかになっている。

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