死者も出る毒ヘビの儀式、キリスト教一派の危険な実践

ヘビ使いのいるペンテコステ派の一部の教会に変化の兆し

2021.02.10
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ウェストバージニア州ジョロにあるロード・ジーザス教会では、ホームカミング礼拝でヘビ使いの儀式を行う伝統がある。聖書のマルコによる福音書16章18節に書かれている「しるし」に従う者は、ヘビを手でつかみ、毒を飲んでも神の加護があると信じられているためだ。(PHOTOGRAPH BY STACY KRANITZ)

 数年前のある暑い夏の夜、米テネシー州にあるキリスト教ペンテコステ派の教会タバナクル・チャーチ・オブ・ゴッドで集会が開かれた。町を出てアパラチア地方の各地に散っていた元教会員たちが戻ってきて、昔のように一緒に神を礼拝するためだ。だがこの集会では、命に関わる危険な儀式が行われていた。

 5世代におよぶヘビ使いの家系であるタイラー・エバンスさんは、踊りながら講壇の周囲を回り、手にした火炎瓶を肌に押し付けた。やけどはしなかった。次に、ストリキニーネ入りの水が入ったガラス瓶をあおった。ストリキニーネといえば、アガサ・クリスティの小説にも登場する毒薬だが、エバンスさんは咳一つしない。少し離れたところでは、この教会の牧師であるアンドリュー・ハンブリン氏が、毒を持つ2匹のアメリカマムシを腕に絡ませて、うなずいて見せた。

 テネシー州を含め、米国東部アパラチア地方の6つの州では、様々な理由でヘビを使った宗教儀式を禁止しているが、ハンブリン氏の会衆は、そんなことにはお構いなしだ。ワイシャツに黒いズボン姿の男たちは、互いに肩を組み輪になって踊る。そして、祈りや讃美歌を口ずさみ、鋭い牙のヘビを持って空中で揺らし、隣の人へ手渡していく。

アラバマ州セクションのロックハウス・ホーリネス教会で、マルコ16章18節に書かれている言葉「病人に手を置けば治る」を実践して、女性に手を置く教会員たち。(PHOTOGRAPH BY STACY KRANITZ)

 この夜は、アンドリュー・エイブラムスさん(18歳)のイニシエーション(通過儀礼)の日でもあった。神からの啓示を求めて祈っていたエイブラムスさんの元へ、父親が2匹のアメリカマムシを持って近づいてくる。とっさに「主よ、僕にはできません」と心の中でつぶやいたが、それでもヘビを手にすることができた。「他では絶対に味わえない気分でした。自分の手の中に死がある。でも、そいつは僕に対して何もできないのです」。集会後に、エイブラムスさんはうれしそうにそう言った。

「蛇をつかむ」のは聖書の教えから

 現在、このタバナクル教会はなくなっているが、当時米国では、約125の教会で同様の儀式が行われていた。彼らは、新約聖書のマルコによる福音書16章に書かれている5つの「しるし」に従っているのだと主張する。同福音書の16章17~18節には次のような一節がある。

「信じる者には次のようなしるしが伴う。彼らはわたしの名によって悪霊を追い出し、新しい言葉を語る。手で蛇をつかみ、また、毒を飲んでも決して害を受けず、病人に手を置けば治る」(日本聖書協会『新共同訳 新約聖書』)

ロックハウス・ホーリネス教会の金曜礼拝で、火炎瓶を手にするJ・L・ダイアルさん。神に絶対的な信頼を置いて火を操る者は、肌や服に火を近づけても熱さを感じず、やけどもしないと信じている。(PHOTOGRAPH BY STACY KRANITZ)

 現代のペンテコステ運動のルーツは、19世紀末にプロテスタントのメソジスト教団から起こったホーリネス運動に遡る。メソジストの教えに、アナバプテスト、長老派、クエーカーの教えを取り入れ、ダンス、飲酒、ギャンブル、観劇といった世俗的な欲求を避けることで、神への献身を示すよう勧める動きだ。

 多くの学者は、カンザス州トピーカで1901年に開かれた元旦祈祷会が近代ペンテコステ運動の発端になったと考えている。この集会の参加者たちが、マルコに書かれているしるしのひとつである「新しい言葉」、つまり異言を語り始めたのだ。

 聖書の時代、ペンテコステの日に使徒たちが語ったという異言は、この集会の日まで2000年近く語られてこなかった。その後まもなく、病人に手を置く癒やしや、悪霊の追い出しも行われるようになるが、ヘビをつかみ、毒を飲む者はまだ現れなかった。

 ところがそれからさらに数年後、テネシー州でリバイバル(信仰復興)集会を行っていた牧師のジョージ・ヘンズリーが、聖書の命令は5つのしるし全てを実践することであると主張し、教会にヘビを持ち込んだ。

 多くのペンテコステ派は、この解釈を否定している。そのため、ヘビ使いの儀式は、地理的に孤立したアパラチア地方の一部の教会から外へ広がることはなく、他のキリスト教会や警察の目にも触れずに細々と継承されてきた。だがハンブリン氏の教会は、外の世界とつながりやすい州間高速道路の近くに位置していた。

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