あわや街が消えていた、米国に2発の水素爆弾が降った夜

60年前の冷戦中、水素爆弾を積んだ米国の爆撃機が空中分解した

2021.02.05
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1961年1月24日の早朝、ノースカロライナ州ファロ村の近くに墜落したB-52戦略爆撃機の消火作業に当たる消防士たち。(PHOTOGRAPH BY BETTMANN ARCHIVE, GETTY)
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 1961年1月に米国ノースカロライナ州ゴールズボロ近郊で起きた出来事を、ビリー・リーブスさんは、今でも覚えている。その夜は真冬とは思えないほど暖かかったが、午前0時を回る少し前、突然猛烈な暑さに襲われた。そればかりか、部屋の壁が赤く光り出し、窓の外からは奇妙な光が差し込んだ。

「ちょうど寝る準備をするところでした。びっくりして、何が起きたのかと思いましたよ」

 当時17歳だったリーブスさんが、急いで外のポーチに出たまさにその時、片方の翼を失ったB-52爆撃機が炎に包まれて空から落ちてくるのが目に入った。そしてそれは、燃え盛る破片をまき散らしながら、わずか数百メートル先の綿花畑に叩きつけられた。

「このあたり一帯は何もかも燃えていました」。現在78歳のリーブスさんは、事故現場の畑の真ん中に立っていた。背後には、リーブスさんの生まれ育った家が今も建っている。

事故から1時間もしないうちに、軍のヘリコプターが飛んできた。プロペラの騒音に交じって、拡声器が「避難せよ」と繰り返しがなり立てていた。

「理由はわかりませんでしたが、何も聞かず、とりあえず逃げました」

 ヘリコプターの声の主だけが知っていて、リーブスさんたちには知らされなかったことがある。墜落した機体のすぐそばに核出力3.8メガトンの水素爆弾2発が落ちていたという事実だ。その爆弾1発だけで、人類の歴史が始まってから第二次世界大戦終結までに爆発した、あらゆる爆発物をすべて合わせたよりも大きな破壊力を持っていた。(参考記事:「米国は第3の原爆投下を計画していた」

翼と祈り

 シーモア・ジョンソン空軍基地は、静かな田舎町ゴールズボロのすぐ近くにある。1960年の終わり頃から爆撃機の出入りが激しくなったものの、町の住民たちは、異変には全く気付いていなかった。実は、冷戦のさなか、複数のB-52爆撃機を北半球の空に飛ばして継続的に警戒するという米軍の「クロームドーム作戦」の発着地に、この基地が選ばれていたのだ。各爆撃機には、2発の核爆弾が搭載されていた。

冷戦時代、米国によるクロームドーム作戦の一環として、空軍のB-52爆撃機が昼夜を問わず世界中の空を飛行していた。(PHOTOGRAPH BY DEPARTMENT OF DEFENSE, THE LIFE PICTURE COLLECTION/GETTY)
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 この日、基地を飛び立ったB-52はノースカロライナ州の海岸沿いを何回か訓練飛行した後で、大西洋の真ん中にあるアゾレス諸島へ向かい、その後引き返す予定だった。だが、燃費の悪いB-52は、何度も空中給油を受ける必要があった。

 何回目かの給油を受けた後、機長のウォルター・トゥロック大尉は、燃料が異常な速さで減っていることに気づいた。さらに、電気系統でも問題が発生した。管制からゴールズボロへ戻るよう指令があったが、トゥロック大尉は危険な着陸を試みる前にもう少し燃料を消費して減らしたほうが良いと考えた。だが、しばらくするとやはり基地へ引き返したほうがいいと判断した。

次ページ:空中分解したB-52からの脱出

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