研究者らは新規の変異株の動きに目を光らせている。将来的にワクチンを最新のものにアップデートすることが必要になった場合、現在認可されているmRNAワクチン(ファイザー・ビオンテックやモデルナ社製のものなど)であれば、約6週間という短期間でアップデートが可能だとアンダーソン氏は言う。ただしこの見込みには、アップデートされたワクチンが受けなければならない規制当局による承認については考慮されていない。

 今後、SARS-CoV-2への有効な対策を進めるためには、インフルエンザの変異株の収集、ゲノム配列の決定、研究などに用いられているものに等しい世界的な監視ネットワークが必要となるだろう。

「わたしたちはこのウイルスとともに生きなければならないでしょう。定期的なワクチン接種を受けなければならないでしょうし、またウイルスの進化を追跡するために、非常に高度な分子監視プログラムを維持しなければならないでしょう」と、アンダーソン氏は言う。

ワクチンか、自然免疫か

 専門家らは、パンデミック状態からの移行は、特に高齢者など新型コロナウイルスに対して弱い人々の間で免疫がどの程度広がるかにかかっていると考えている。若い人、特に子どもたちは、生涯にわたってウイルスにさらされることによってSARS-CoV-2への免疫を獲得していくだろう。すでに成人となった人たちはそうした恩恵にはあずかっていないため、免疫系はこのウイルスに対して脆弱なままとなる。

 ウイルスの拡散スピードを遅らせるのに、人口全体の何割くらいが免疫を持てばよいのかは、将来的に登場する変異株の感染力によって変わってくる。それでも、SARS-CoV-2の初期の株の研究からは、パンデミックを収束させるためには、人口の少なくとも60~70%が免疫を持つ必要があることがわかっている。

 いわゆる集団免疫を実現する方法は2つある。一つは大規模なワクチン接種、もう一つは自然感染だ。ただ、ウイルスの制御不能な蔓延には、世界中でさらに何万人もの患者の入院・死亡という恐ろしい代価が伴う。「もしワクチンを支持・推進しないのであれば、わたしたちは何人の高齢者を死なせたいのかを決めなければなりません。そんな決定をするのは、わたしはごめんです」と、デュプレックス氏は言う。

 米コロンビア大学の感染症専門家ジェフリー・シャーマン氏は、世界中でワクチン接種をすすめる動きは、医療における不公平を露呈させていると指摘する。英エコノミスト・インテリジェンス・ユニットが12月に公表した地図には、米国などの富裕国では2022年初めまでに多くの人がワクチン接種を受けられる一方、アフリカやアジアの比較的貧困な国々では、2023年末になる可能性があると示されている。

 世界保健機関(WHO)の推計によると、1月18日の週までに、COVID-19ワクチンは高所得国を中心に世界中で4000万回分が投与されている。かたやアフリカでは、ワクチンの提供を開始しているのはセーシェルとギニアの2カ国だけだ。そして低所得国のギニアでは、接種を受けたのは25人に過ぎない。

「富裕国がワクチンを抱え込めば、この試練を長引かせ、アフリカの回復を遅らせるだけです」と、WHOのアフリカ地域事務局長マシディソ・モエティ氏は述べている。「アフリカの最も弱い人々がワクチン接種を待機させられている一方で、富裕国のリスクの低い層が安全を確保するのは極めて不公平です」

 もし新型コロナウイルスが最終的に一般的な風邪と同じように蔓延した場合はしかし、ワクチンは永遠に必要なくなるかもしれないと、ラビーン氏は言う。

 ただし、研究者らによる予測でさえも、不確かさという霧に阻まれて未来を見通すことはできない。再感染、感染経路、パンデミック後の健康被害、ウイルスの進化などの問題は、今後何年も、場合によっては何十年も続くだろう。

「残念ながら、これには時間がかかります」と、シャーマン氏は言う。「答えを教えてくれるのは時間だけなのです」

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